決断の時(2)
親友からの呼び出しメール。
『夕方に来てくれ』だなんて、何があったのだろうと気になり少し早めに家を出ることにした。
そのとき。僕のスマホから着信音が静かな部屋に鳴り響く。
一瞬ドキリとしたが取りあえず電話にでてみる。
四角い機械仕掛けの箱の向こうから聞こえる尋常ではないヤツの声色に、状況を聞くのも忘れて電話を切ると、思わず部屋を飛び出した。
そろそろヤツとの関係を何とかしようと思っていた矢先のことだった。
何があったんだ。
親友との約束は夕方だ。今から急いでヤツの家に向かい、状況を把握してからでも間に合うだろう。もしなにかあるならば、親友には申し訳ないが連絡して少し時間をずらしてもらおう。
そんなことを考えながらも、ようやくヤツの住むマンションに着いて、エレベーターのボタンを押す。
ヤツのことは恋人とは名ばかりの、実質友達以上恋人未満としか考えられない。
今までずっとそう思っていた。ヤツのことは嫌いではないが、特別に好きでもない。
だから仮にヤツになにかあったとしても、それほど心配することもないと思っていた。
なのに、電話を切ってからずっと気になっている。
無事でいるように。
正直自分でもびっくりしている。
彼女に対してなら文句なしにそう思い、駆けつける。
だけど、電話をかけてきたのはヤツだよ。
そんな風に思う日がくるなんて、考えてもいなかった。
自分の感情に驚きながらも、部屋のインターホンを鳴らす。
少しの沈黙。応答を待つ間も緊張が走る。
しばらくして玄関の鍵を開ける音がしたかと思うと、ドアが開いた。
「はーい」
脳天気な返事とともに、開かれた玄関のドア。
あっけにとられながらも、僕は問いかける。
「お前一体どうしたんだ? あんな電話かけてくるから、びっくりしたじゃないか」
「ふふっ、心配してくれたんだ」
余裕顔で笑う態度に少し呆れながらも、状況がイマイチ飲み込めないでいる。
「当り前だろ! で、何があったんだ?」
「何も」
「はあ? 何考えてんだ。こっちは慌てて飛び出してきたんだぞ」
どういうつもりなんだ?
「ああでも言わないと、お家に来てくれないんだもん」
ヤツの元気そうな顔を見て安心したのと同時に、自分勝手な言動に腹が立つ。
「いい加減にしろよ。結婚前の女が、一人暮らしの部屋に軽々しく男を呼ぶもんじゃない! 何もないんなら帰る」
僕はそういうところにはこだわるタイプなんだよ。
積極的すぎるのはかえって引いてしまう。軽い女性に思えてしまうからだ。
「あ、待って、ごめんなさい。そんなに怒らなくても……」
これが怒らずにいられるだろうか。
お読み下さりありがとうございました。
次話「決断の時(3)」もよろしくお願いします!