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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第10章 決断の時
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平穏? (1)

 目覚まし時計の凄まじい音で飛び起きた僕は、父、母、妹と4人揃って朝食を摂るために、いつものように身支度を整え階下に降りる。我が家では特別なことがない限り、“朝・夕は全員揃って食事をする”、という暗黙のルールがあるのだ。

 父と妹はもうテーブルについて、配膳を待ちながら慌ただしい朝のひとときを思い思いに過ごしていた……と、いつものように言いたいところだが。


「おはよう」 

 

『おはよう』


 全員一瞬こちらを見て、また思い思いの時間に戻る。


 あれ? ……いつもとなにか様子が違う。


 どういうことだ?


 テーブルについているのは、配膳を待ちながら慌ただしい朝のひとときを思い思いに過ごしていた父と母で、台所に立っているのは……まだ寝ぼけているのかと我が目を疑った。


 真っ白いひらひらレースのエプロンで身を包み、真剣な面持ちでフライパン片手に格闘するその姿。高い位置でまとめ上げたポニーテールは頭を振る度に右へ左へと落ち着きなく動く。

 クリクリっとした瞳は真剣そのもので、フライ返しに操られているかのようなそのぎこちない手の動き。


 見ている方がドキドキする。


 ああ、妹よ。

 今まで料理はしてこなかったのか、と問いたくなる。

 僕の方が少しは上手くできる気もしなくもないが。



 なんでも、急に料理に目覚めて「上達するにはとにかく作ってみなきゃ」とやる気満々に仰ったそうで。

 なにもこんな朝の忙しい時に作らなくても、ゆっくりと夕食作りを頑張ればいいものを。

 むむむ。さてはあの『イケメンボーイ』の彼氏くんとなにか関係があるのかな?


「珍しいな。お前が料理なんて」


 妹が料理を作っている所なんて、今までに見たことがない。


「ふふふ。楽しみにしててね」


 「なにができるのかな?」


 一応聞いてみる。


「それは出来上がってからのお楽しみ~」


 もう不安しかない。


 母親はどうしてああもニコニコしながら眺めていられるのだろうか。


 僕の認識している妹の料理の腕前はというと……そうだ。いや、これは料理と呼べるかどうかは疑問だが。 

 溶かして固めるだけでオッケーのバレンタインの、一見手作り風チョコ・・・・・・・・・だって、味は市販のものだから美味しいに決まっているけど、見た目はというと……いや、これ以上はやめておこう。


「料理でやけどなんかしないように。気を付けるように」と心配そうに覗き込む父親に、「大丈夫、大丈夫」と苦笑いをし、「大丈夫か」と近寄る僕にはあっちに行けと言わんばかりに手を振りながら「ほっといて」と口走る。


 一体どんな料理が出来上がってくるのか。

 慣れない手つきで一生懸命奮闘している妹の姿は可愛くもあり、微笑ましくもある。


 が、しかしだ。

 そんな悠長なことは言ってられない。

 早くしてくれないと、遅刻しちゃうよ。



お読み下さりありがとうございました。


次話「平穏? (2)」もよろしくお願いします!

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