今日の終わりに
『さよなら』にも、色んな形があるんだな。
彼女を家の近くまで送り、笑顔で見送った。
その後の自宅までの時間が、やけに長く感じられた。
抜け殻のような体をベッドに放り込んで、天井を見つめる。
あっという間に通りすぎていってしまった今日という日。
楽しくも儚く切ない夢のような僕の想い出。
今日の彼女を、いや、僕の知っている限りの全ての彼女を、頭に焼き付けておこう。心に刻んでおこう。そう思う。
今日がくるまでは少し楽しみなところもあったが、今日が終わってしまえば「もっとああすればよかった」とか「こうすればよかった」「もっといろんな話をすればよかった」と、今更考えても仕方のないことばかり浮かんでくる。
僕の悪いところ。
『エピローグデート』……か。
他人から見れば、馬鹿げているかもしれない。けど……僕達には必要だった、けじめのデート。本当にけじめがついたのか? 余計に辛くなっただけじゃないのか?
彼女はどうだったんだろう。
お互いに自分の本当の気持ちを言い合って、さよならして……。それで本当にけじめってつくのか? ひとの心ってそんなに簡単なものなのか?
『けじめ』って何だ!
「ふぅ」
大きくひと息ついた。
けじめって何だ……。
元気を出して、明日も頑張る……か。
僕は穴が空くほど見つめていた白い天井に別れを告げ、今日という日に別れを言おう。
また明日を頑張るために、両瞼を重ねる。
しばらくはいろいろと思うところもあったが、いつの間にか眠っていたようだ。
『此処は……何処だ?』
僕は――全てが真っ白な世界――に、呆然と立ち竦んでいた。
足元には自分の影さえもなく、眩しいほどに純白の世界で、遙か向こうの『誰か』に気づく。手招きする〈女神のようなその差し出した手〉に近づいてみようと歩き出した。随分と歩いて、やっと手が届きそうになると、遠ざかる美しい手。
純白のドレスを身に纏い、白のベールに包まれた、女神のようなその姿は、顔も見えないはずなのに、どこか懐かしく、僕に優しさと勇気を与えてくれる気がする。
顔も見えないはずなのに、その瞳は潤んでいるように感じた。
『キミは……誰?』
〈女神のようなその差し出した手〉を、僕は追いかけることにした。追いかけて、追いかけて、追いかけてみようと思った。
いつかこの手が届くと信じてみよう。
もう後悔しないために。
そして……。
目覚まし時計の凄まじい音で飛び起きた僕は、いつものように身支度を整え、会社に向かう。
平穏で無気力な1日が今日も始まるのか。
今話から新章、『第10章 決断の時』に入りました。
お読み下さりありがとうございました。