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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第9章 『エピローグデート』
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『エピローグデート』(8)

 そのままオレと彼女は、夜の街にちりばめられた宝石たちをずっと眺めていた。

 言葉なんていらない。今のふたりには安心感だけで充分だった。

 ただ黙ったまま、ずっとそうしていた。



 暫くすると、抱きしめた僕の腕に、何か冷たいものが零れてくるのを感じた。


「どうして泣くの? 楽しい想い出を作るための『エピローグデート』じゃなかったの?」


 彼女の涙にそう答えるしかなかった。

 いや、それ以外の言葉が思いつかなかった。


「……った」


 彼女の口からこぼれた声はか細く、言葉を聞き取ることができない。


「えっ?」


 なにを言おうとしたのだろうか。


「……なかった」


「え、何て言ったの?」

 

 震える言葉尻に、もう一度聞いてみる。


「本当はね、お見合いなんて、結婚なんてしたくなかった」


 そう言うと、彼女はせきを切ったように泣き出した。

 あまりに突然の告白に耳を疑ったし、彼女のセリフに正直驚いたから、すぐには言葉がでない。

 彼女の口からそんな言葉を聞くなんて、思ってもいなかったから。


 お互いに納得した上で、その上で今日のデートを楽しもうとしていたのに、これじゃあ台無しじゃないか。

 そう考えるのが大人なのだろうが、僕はまだ大人にはなりきれていない。


 一般的に24歳といえば充分大人なはずだ。

 一番近くにいる親友や彼女ちゃんなんかは、もうふたりで温かな家庭を築いて子供もちゃんと育てている。

 自分の人生、そして家族の人生にも責任を持って歩んでいる。


 僕の周りの同僚や友人たちを見ていても、しっかりとした自分の考えを持って、地に足をつけて行動している人が多い。

 思慮深い。そんな言葉がピッタリな人間ばかりだ。


 だけど僕はどうだ?

 いつまでたっても優柔不断で、自分中心な考えや行動をしているんじゃないかと疑問に思ってしまう。

 軽率。そんな言葉がピッタリに思えてくる。


 そんな僕だからか彼女の本心を聞くことができて、内心嬉しくもあった。


『じゃあ、やめれば』


 そう言えればどれだけ楽だろう。

 できることならそう言ってしまいたい。

 だけど言ったところで現実が変わるわけでもなし、ただむなしさだけが通り過ぎるだけだ。


 僕は大人になろう。

 自分の想いだけで過ごしていくのは辞めよう。

 そう思って今まで自分の気持ちを押し殺して、今日という日を過ごしてきたわけだけれど。

 それに今日は……。


 けじめのデートだよ。


 そう心に言い聞かせて、僕はまた平静を装った。

 そして心にもない言葉を口にする。


「今頃、何言ってるんだ」


「だって、だって、本当は今でもあなたが好きだから。ずっと一緒にいたかったから。だからもうさよならだと思うと哀しくて……」


 彼女の言葉を聞いて、まだ平静でいられるのか?

 彼女にそこまで言わせておいて、冷静でいられるのか?



お読み下さりありがとうございました。


次話「『エピローグデート』(9)」もよろしくお願いします!

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