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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第9章 『エピローグデート』
72/110

『エピローグデート』(7)

 容赦なく無情な時間ときが訪れる。

 いよいよ、夜景観賞に行く時間になった。

 

 この夜景観賞が、ふたりに残された最後の想い出になる。

 僕は切ない想いを胸に車を走らせた。


 時間ときの狭間の想い出。

 通り過ぎてもまた想い出せるだろうか。


 このドライブウェイを登れば……もう、すぐそこまで終わりの時間が近づいている。


 切ない時間を過ごし、辛い想い出としてこころの記録メモリに残したくはない。

 楽しい想い出として、頭に記憶メモリーとして残したい。


 こんな状況で、そう考えるのはおかしいだろうか。


 そんな僕の心情を察してか、それとも彼女も同じ想いなのか、ふたりとも無言のまま車は目的地へと近づいてゆく。




 気分を変えようと、ラジオのスイッチを入れた。陽気なD.Jの声に、少しは気が紛れる。


『次の曲は、「エピローグ」』


 音楽がかかると、息をのむ彼女の様子がうかがえた。

 小さく漏れた吐息で、目を潤ませているのだと想像できる。


♪ 今度はいつ会えるの 約束して

 今度は海を 見に行きたいの

 最後の最後に 海が見たいの

 2人の別れには 海が似合いね


 2人の愛の想い出を 

 そっと海に流しましょう

 

 送ってくれなくていいのよ

 このまま こうしていたいから

 送ってくれなくていいのよ

 もう少し このままでいて


 もう少し そばにいて……

 今日だけは 恋人でいて ♪



「この歌、泣けるよね」


 そう言って、彼女は何度も涙を拭っていた。


 『ホントに』


 僕は心の中でそう呟いた。


 今日のふたりにはおあつらえ向きの歌じゃないか。

 まるで僕たちのためにあるような歌じゃないか。


 この曲が僕たちの想い出の曲になるのだろうか。


 ……だとしたらあまりに切なすぎる。



 曲が終わると、いよいよ夜景スポットに到着した。

 駐車場に車を止めると、目の前にはまたたくく星と、目映まばゆいばかりに街の灯りの海が広がる。



「わぁ、きれい。ここから見えるのが、有名な100万ドルの夜景ね」


 大きな瞳をきらきらと輝かせて彼女は身を乗り出す。


「ああ。気に入った?」


「ええ、とっても」


 嬉しそうな笑顔。僕の好きな彼女の……。


「100万ドルの夜景って言っても、そう名付けられた時とは違うだろうけど」


「そうね。今じゃその3倍以上だね」


 そんなたわいない会話が胸を締めつける。



「車の外に出てみる? ガラス越しじゃなく、外の方がきっと、もっと綺麗だよ」


 僕の提案に、「そうだね」と答えてシートベルトを外す彼女。


 ふたりは車を降り、ボンネットの前に立って、飛び込んでくる夜景を眺めた。

 吸い込まれそうなくらいの光の競演に、言葉も出ないほどだ。


 それは本当に綺麗だった。


 そして満天の空。

 思えば冬に彼女とのことがあってから、こんなにゆっくりと星を眺めたことなんてなかったな。




「やっぱり夜の山は、夏でもちょっと冷えるね」


 彼女は少し寒そうに、背中を丸める。


 僕は彼女を……そっと背中から抱きしめた。


「これで少しは暖かくなった?」


 彼女を包み込むようにそっと抱きしめる。 


「うん。こうしてると、何だか安心する」


 彼女はそのまま僕の胸に頭をもたれかけさせて、優しい声音で答える。


「僕も」


 静かな時間ときに包まれて、つい言ってしまう。


「……ずっとこうしていたいな」


「私も」


 僕たちは夜の街にちりばめられた宝石達を、ずっと眺めていた。

 言葉なんていらない。ただずっと黙ったままそうしていた。そう。ずっと。


 暫くすると……。



お読み下さりありがとうございました。


作中に出てくる曲『エピローグ』の歌詞は、自作オリジナルの歌の一番のみを使用したものです。

ギターで作った、メジャー7の幻想的な感じの曲です。


次話「『エピローグデート』(8)」もよろしくお願いします!


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