『エピローグデート』(6)
沈みゆく今日の日を眺めていると、しばらくして彼女の頭がオレの肩に寄り添ってきた。
愛おしい。
それ以外の言葉なんて浮かばないほどに、彼女への想いが心臓を駆け巡る。
「今日が終わるまで、今日だけは、恋人として接してくれる?」
彼女の言葉を聞いて、抑えていた感情が溢れそうになる。
この胸の高鳴りを隠してどう言えばいい?
彼女からの問いかけに僕はどう答えれば、どう応えればいいのだろう。
そうだ。そんなことは解りきっていることだ。
このエピローグデートの約束をしたときから、この日をどう過ごせばいいかなんて考えていたはずだ。
『けじめ』
その言葉が脳裏を過ぎる。
ふたりの気持ちにけじめをつけるための、『さよなら』のデートなんだ。
僕は、また冷静を装った。
「もうすぐ結婚するんだろ」
だけど、そんな当り前の言葉しか思いつかない。
「だから今日だけ。だって、デートでしょ? さよならの時間まで、恋人でいて」
上目づかいでねだるような彼女の顔を見て、誰が嫌だと言える?
今日だけの恋人だなんて、切なくなるに決まっている。
だけど、その彼女の申し出を誰が断ることができる?
「……仕方ないな」
僕は左腕で彼女の肩を抱く。
『仕方ない』という言葉を選んだのは、自分自身の感情を抑えるためでもあった。
しかしたとえようのない『なにか』が、込み上げてくるのが自分でも解る。
でもそれ以上はお互いになにも言わず、そのまましばらく空と海の境目を眺めていた。
オレンジ色のかたまりも、もうすっかり海に溶け込んで、辺りはその名残だけを惜しんでいる。
この『たそがれどき』に飲み込まれないように、僕は気持ちを切り替えることにした。
「そろそろ、ディナーに行く時間だよ」
「うん、楽しみ」
その言葉とは裏腹に、心なしか、元気がない彼女。
もうすぐ今日が終わる。
それからディナーの予約をしておいた、近くの港にあるホテルへと向かう。
彼女にとっては最後の、僕にとっては最初で最後の『恋人』としてのデート。
もう時間がない。
切ないだけのデートにはしたくない。
楽しい時間を、ずっと心に残る優しい時間を過ごしたい。
そんな気持ちでふたりとも努めて明るく振る舞っていたんだと思う。
楽しい想い出を作ろうとしたけれど、そうすればするほどにお互いに気持ちが空回りして、ディナーは少しぎこちなく終わってしまった。
いよいよ、夜景観賞に行く時間だ。
ホテルの駐車場から車に乗り込んで、有名な夜景スポットに向かう。
このドライブウェイを登れば……。
もう、すぐそこまで終わりの時間が近づいている。
お読み下さりありがとうございました。
次話「『エピローグデート』(7)」もよろしくお願いします!