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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第9章 『エピローグデート』
70/110

『エピローグデート』(5)     ✩挿し絵あり

 大盛り上がりのまま水族館を後にした僕たちだが、今日のデートの半分を過ぎたからか、楽しい気持ちと少しもの悲しい気持ちが次第に入り交じってくる。


 初めははしゃいでいた彼女も、だんだんと口数が減ってきた。もう夕方になって、残り時間も少なくなってきたからだろうか。


 今日のプラン。彼女には最後の、僕にとってはふたりの最初で最後のデート、『エピローグデート』。


『まず、ドライブがてら海沿いの国道を走って、海辺のレストランで早めの昼食。そのあと、海岸のすぐそばにある水族館に行って、夕方はそのまま砂浜で夕陽を眺め、それから港にあるホテルでディナー。その後、山のドライブウェイを登って、夜景スポットから100万ドルの夜景観賞。それでいよいよお開きとなります』


 デートが始まるときにそう伝えた。


『すっごーい、完璧だね。今日は思いっきり楽しみましょう!』


 彼女はその言葉の通りとても明るく振る舞っているが、ふとした時に目を細め寂しげな面持ちになる。


 それは……そう。

 僕の入院中に彼女が時折見せたあの表情にどこか似ている。


 僕が目を覚ますと、彼女は南側の窓辺に立って外を眺めていた。

 夕陽であかく染まっている彼女の横顔は、どこか寂しげで。

 できることなら背中からそっと抱きしめて、安心させてあげたい。


 そう思ったときの、あの表情に。





 砂浜に並んで座って、今日1日の仕事を終えた光のかたまりが、海と一緒になって消えていくのを眺めている。2人とも何も喋らなかった。そのまま、ただ水平線に太陽が溶けていくのを見ていた。名残を惜しみながら。


 しばらくそうしていると、彼女はおもむろにさっきの水族館の『ガチャ』で手に入れた、例のものをバッグから取り出す。

 それを手のひらに乗せて、海に浮かべるような素振そぶりで手を前に差し出し、海と一緒に眺めている。



挿絵(By みてみん)




「この子もあの海のどこかにいるのかな?」


「そうだね。いるかもね」



 それにしても、本当に『マンボウ』が出てくるなんて驚きだ。

 僕は『マンボウ』を手にしたとき、思わずにやけ顔で「おおー」と声を発してしまったが、彼女はにっこり笑って「ね、言った通りでしょ。ここは『マンボウ』だって、ピンときた」だって。



 そうして少しそのまま沈みゆく今日の日を眺めていると、しばらくして彼女の頭が僕の肩に寄り添ってきた。


「今日が終わるまで、今日だけは、恋人として接してくれる?」


 突然の問いかけに、ただ波の音に紛れて鼓動が寄せては返すばかり。


 彼女の言葉に僕はどう答えれば、どう応えればいいのか解らなかった。


 

お読み下さりありがとうございました。


次話「『エピローグデート』(6)」もよろしくお願いします!

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