『エピローグデート』(5) ✩挿し絵あり
大盛り上がりのまま水族館を後にした僕たちだが、今日のデートの半分を過ぎたからか、楽しい気持ちと少しもの悲しい気持ちが次第に入り交じってくる。
初めははしゃいでいた彼女も、だんだんと口数が減ってきた。もう夕方になって、残り時間も少なくなってきたからだろうか。
今日のプラン。彼女には最後の、僕にとってはふたりの最初で最後のデート、『エピローグデート』。
『まず、ドライブがてら海沿いの国道を走って、海辺のレストランで早めの昼食。そのあと、海岸のすぐそばにある水族館に行って、夕方はそのまま砂浜で夕陽を眺め、それから港にあるホテルでディナー。その後、山のドライブウェイを登って、夜景スポットから100万ドルの夜景観賞。それでいよいよお開きとなります』
デートが始まるときにそう伝えた。
『すっごーい、完璧だね。今日は思いっきり楽しみましょう!』
彼女はその言葉の通りとても明るく振る舞っているが、ふとした時に目を細め寂しげな面持ちになる。
それは……そう。
僕の入院中に彼女が時折見せたあの表情にどこか似ている。
僕が目を覚ますと、彼女は南側の窓辺に立って外を眺めていた。
夕陽で朱く染まっている彼女の横顔は、どこか寂しげで。
できることなら背中からそっと抱きしめて、安心させてあげたい。
そう思ったときの、あの表情に。
砂浜に並んで座って、今日1日の仕事を終えた光のかたまりが、海と一緒になって消えていくのを眺めている。2人とも何も喋らなかった。そのまま、ただ水平線に太陽が溶けていくのを見ていた。名残を惜しみながら。
しばらくそうしていると、彼女はおもむろにさっきの水族館の『ガチャ』で手に入れた、例のものをバッグから取り出す。
それを手のひらに乗せて、海に浮かべるような素振りで手を前に差し出し、海と一緒に眺めている。
「この子もあの海のどこかにいるのかな?」
「そうだね。いるかもね」
それにしても、本当に『マンボウ』が出てくるなんて驚きだ。
僕は『マンボウ』を手にしたとき、思わずにやけ顔で「おおー」と声を発してしまったが、彼女はにっこり笑って「ね、言った通りでしょ。ここは『マンボウ』だって、ピンときた」だって。
そうして少しそのまま沈みゆく今日の日を眺めていると、しばらくして彼女の頭が僕の肩に寄り添ってきた。
「今日が終わるまで、今日だけは、恋人として接してくれる?」
突然の問いかけに、ただ波の音に紛れて鼓動が寄せては返すばかり。
彼女の言葉に僕はどう答えれば、どう応えればいいのか解らなかった。
お読み下さりありがとうございました。
次話「『エピローグデート』(6)」もよろしくお願いします!