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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第9章 『エピローグデート』
69/110

『エピローグデート』(4)     ✩挿し絵あり  

 水族館に入るとまず大きなサメの模型と遭遇する。

 その前には一眼レフカメラを首にかけた女性が微笑み、「記念写真はいかがですか?」と声をかけてくる。

「お手持ちのカメラ、スマホでも撮影いたします」なんて言葉も聞こえてくるが、いくら何でもスマホでの撮影を頼んで『はい、さよなら』ってわけにはいかないだろう。

 きっとお高い一眼レフで、如何いかばかりかの金銭を支払い撮影をしてもらう“ついで”にスマホでも、といったところだろう。


 僕は一応「どうする?」と彼女の方をチラッと見たが、彼女は我関せずといった様子で、どんどん進んで行く。

 順路の始めにお目見えしたのは、トンネル形の水槽だ。頭上に現れるそれは、「おおっ」と声を発してしまうほど圧巻である。


 サメやエイに、見たこともないような色鮮やかなブルーの魚。

 ちっとも動かないで「休憩中」と言わんばかりの魚もいれば、所狭しと泳ぎ回る小魚の群れ。

 下から見上げる水槽は度肝を抜かれるが、しばらくすると酔いもする。

 目が回るとまでは言わないが、不思議な感覚に陥る。

 日常とは違う世界が感覚を敏感にさせているのか、それとも世界に誇れる日本の技術で作られた、分厚いアクリルガラスがそうさせているのか。


 トンネルを抜けてからは、各コーナーに分かれており、順路に沿って進んで行く。

 全ての水槽の前で立ち止まり、あの魚がどうだとか、この魚の名前はなんだとか、たわいない話で盛り上がり、楽しく時間ときは進んでゆく。


 中でも彼女のお気に入りは『マンボウ』だ。

 泳いでいる姿がなんとも愛らしくってかわいいらしい。

 もっとも正面から見たその顔は、『いかついオジサン』風だけど。


挿絵(By みてみん)



 僕は『エイ』が好きだな。

 優雅に泳ぐその姿は、さながら翼を広げて大空を華麗に舞う鳥のよう。

 ずっと見ていても飽きないくらいに惹きつけられる。


 そしていよいよ最終コーナーにさしかかった。

 ここには色とりどりの熱帯魚と透明感がハンパないクラゲたちが。


 熱帯魚コーナーで彼女が一番に食いついたのは、オレンジと白の縞模様の『クマノミ』。


「あ、これ知ってる。アニメのキャラになってたよね」なんて言いながら、きゃっきゃしている姿はまるで女子高生。

 彼女の高校生時代はきっと今と変わらず、あんな感じだったんだろうな、なんて。

 一緒に過ごしたはずなのに、ひとつの想い出さえない僕にはとても新鮮に思える。


『ミズクラゲ』にいたっては、本当にほとんど透明に近く、水の中を自由気儘きままに泳いだり漂ったり。何を考えているんだろうと思ってしまう。いや、何も考えてはいないだろうけど。


 最後は『イワトビペンギン』。

 動じないその姿は、つい近寄って見てしまう。


「わ! 目が合った」って、またはしゃいでいる彼女。

 そんな彼女の姿もまた、ずっと見ていても飽きない。

 というか、このままずっと見ていたい。



 出口付近のショップで何か買おうか? と見て回ったが、結局彼女が立ち止まったのは『ガチャ』の前。


 いくつか並ぶ中で、ひとつの前に立ち止まりこう言う。


「ここにする」


「え? これやるの?」


「うん。ここで『マンボウ』当てて」


 いやいやお嬢さん。出てくるものが予想できないのがこちらの特徴でして。


「そんなにうまくいくかな」


「ここでマンボウが出てくる気がする」


 妙な自信は一体どこから?


「ホントに?」


「うん。300円だって」


 そう言いながらオレに300円を手渡してくる。


「それぐらいオレが出すよ」


「いいから早くお金入れて!」


 促されるままに料金を投入。


「はい、どうぞ」


「早く回してよ」


「自分で回せばいいのに?」


 どうしても僕が『マンボウ』を出すところが見たいらしい。

 って、そんな都合良くいくものか?


 半信半疑で、いやほとんど信じていないけど。半分ヤケクソで、でも、「マンボウよ出ろ!」と心の中で念じながらレバーを回す……。


 僕は出てきたカプセルを掴んだ。


 

お読み下さりありがとうございました。


次話「『エピローグデート』(5)」もよろしくお願いします!

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