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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第9章 『エピローグデート』
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『エピローグデート』(3)

 ずっと待ち望んでいた彼女とのデート。

 彼女とデートをするなんて、記憶の戻らない僕にとっては初めての出来事で。

 本来ならとてもワクワクする出来事のはず。


 でも今日のデートは、それはそれは切ないもので。


 けじめのデート。

 皮肉なものだな。

 僕にとっては彼女との最初で最後のデート。


 さあ、いよいよ『エピローグデート』が始まる。




 彼女の希望通り、ドライブがてら海沿いの国道を走って、海辺のレストランで早めの昼食。

 そのあと、海岸のすぐそばにある水族館に行って、夕方はそのまま砂浜で夕陽を眺め、それから港にあるホテルでディナー。

 その後、山のドライブウェイを登って、夜景スポットから100万ドルの夜景観賞という予定だ。

 彼女の欲張りな望みを全て叶えてあげたいと思う。



「いいお天気でよかったね」


 そう言って、嬉しそうに微笑む彼女。

 この目にずっと焼き付けておきたい。


「そうだね。絶好のドライブ日和だ。この分だと夕陽も夜景も綺麗だろうな」


「わあ、楽しみ!」


 楽しそうに笑う笑顔。

 僕の一番好きな顔。


 離れたくない。離したくない。


 まだ今日という日が始まったばかりだ。時間はいくらでもある。

 後悔しないように、僕も精一杯今日という日を楽しもう。




 彼女は妙にはしゃいでいるが、彼女がさっき言っていたように、今日を『思いっきり楽しもう』としているのだろう。

 その姿が嬉しくもあるがその反面、切なくもある。


 海沿いの国道を走り抜け、海辺のレストランに向かう。

 

 パスタが好きだという彼女の希望で、イタリアンレストランにて少し早めの昼食を摂る。

 僕はボロネーゼを注文し、彼女はツナときのことトマトのペンネを注文した。

 メニューは彼女のこだわりだとかで、僕の分まで勝手に決められて。

 なんでも想い出のメニューだとか。


 そういえば、このエピローグデートをすることに決めた日……駅前で絡まれている彼女に偶然会った日にも、同じことを言ってたっけ。


『高校生の時の想い出』


 僕にはない彼女との想い出。

 きっと僕たちは楽しい高校時代を過ごしていたのだろうな。

 それを思い出せない自分に腹が立つ。



 ゆっくりと食事を終え、食後のコーヒーで胃を落ち着かせる。


 会計を済ませて、次なる目的地である海岸のすぐそばに最近できたばかりの、水族館に向かうことにした。


 と言っても、このレストランからはすぐ近くなので、車はこの辺一帯の共通の駐車場においたまま、歩いて行くことにした。

 この辺りは有名な観光スポットがたくさんあり、レストランに水族館、ショッピング施設や映画館、ちょっとしたイベント会場まである大きなエリアだ。




 ゆっくりと歩き出すとしばらくして、僕の左手にすっと暖かい感触が伝わった。


 え……。


 僕は彼女の方を見る。


「今日はせっかくのデートだから、手を繋ぐくらい、いいでしょ?」


 上目づかいで覗き込む彼女のクリクリッとした大きな瞳。

 思わず吸い込まれそうになるくらいにキラキラと輝いて。


 断る理由もない。いや、断りたくもない。


「そうだな。その方がデートっぽいしね」


 なんて、またいつものように平静を装っているけれども、やっぱり彼女といると、とても平静ではいられない。

 僕の胸の真ん中が激しく揺さぶられるばかりだ。


 ふたりにとって、最初で最後のデートなのに。



お読み下さりありがとうございました。


次話「『エピローグデート』(4)」もよろしくお願いします!

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