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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第9章 『エピローグデート』
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『エピローグデート』(2)

 目覚まし時計の凄まじい音で飛び起きた僕は、あの〈白い夢〉のことが気になり、目覚めてからも多少の違和感を覚えながらも、身支度を整える。


――全てが真っ白な世界――


 前後・左右・上下全てが眩しいほどに純白で、足元には自分の影さえも無い。

 そんな中で届きそうで届かない姿を追い続けた。

〈女神のようなその差し出した手〉を掴もうと、走って走って走って。


 すぐそこなのに。

 もう、すぐそこなのに届かない。

 もう少しで届きそうなところで、その〈女神のようなその差し出した手〉は遠ざかる。


 こんな夢、以前にも見たことがあるのだろうか。

 いや、初めて見る夢だ。

 なのにどこか懐かしく、僕に安らぎを与えてくれる気さえする。


 何故だろう。


 いや、今日はそんなことを考えているヒマはない。

 急いで支度をしなければ。


 そう。

 今日はいよいよ『エピローグデート』の日だ。


 はやる気持ちを抑えつつ、深呼吸とともに早めに身支度を整え、昨日ピカピカに磨き上げておいた愛車に乗る。


 彼女とデートをするなんて、記憶の戻らない僕にとっては初めての出来事で。

 あの事故の後入院していたときは、毎日彼女が病室に来てくれていたとはいえ、それはデートとはほど遠いものだし、退院のときにあんなことがあって。

 それから彼女に会ったのは親友の家で一度きり。

 それもデートというものではなかった。


 皮肉なもんだな。

 あんなに望んでいた彼女とのデートが、僕にとっての彼女との最初のデートが……。

 最後のデートになるなんて。


『エピローグデート』


 我ながら哀しい名前をつけたものだ。


 そんなことを考えながらも、今日という日を忘れないでいよう、忘れないようにいい想い出を作ろうと心に決めた。


 シートベルトをして、エンジンをかける。シフトレバーを『D』レンジに移動させて、サイドブレーキを解除する。

 少し大きめの呼吸をひとつして、ゆっくりとアクセルを踏む。


 今日という日を最高の日にしたい。




 さあ、いよいよ待ち合わせの場所に着いた。


 僕は早めに着いて待っていることにした。

 流石に彼女の家まで迎えに行くのは、気が引ける。


 少し待つと、サイドミラー越しに彼女が見えた。僕は車を降り、彼女に手を振る。彼女は僕を見つけると、ニコッとして、右手を大きく振り、それからロングヘアをなびかせながら走ってきた。


「おはよう。走らなくても、時間はたっぷりあるよ」


「おはよう。待たせてごめんね」


「車だから平気だよ。じゃ、行こうか」


 彼女を助手席に乗せて出発する。


「今日のプランを発表します!」


「はーい、お願いしまーす」


「まず、ドライブがてら海沿いの国道を走って、海辺のレストランで早めの昼食。そのあと、海岸のすぐそばにある水族館に行って、夕方はそのまま砂浜で夕陽を眺め、それから港にあるホテルでディナー。その後、山のドライブウェイを登って、夜景スポットから100万ドルの夜景観賞。それでいよいよお開きとなります」


「すっごーい、完璧だね。今日は思いっきり楽しみましょう!」


 さあ、いよいよ僕たちの最初で最後のデート、『エピローグデート』が始まる。



お読み下さりありがとうございました。


いよいよ『エピローグデート』の始まりです。

次話「『エピローグデート』(3)」もよろしくお願いします!

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