『エピローグデート』(2)
目覚まし時計の凄まじい音で飛び起きた僕は、あの〈白い夢〉のことが気になり、目覚めてからも多少の違和感を覚えながらも、身支度を整える。
――全てが真っ白な世界――
前後・左右・上下全てが眩しいほどに純白で、足元には自分の影さえも無い。
そんな中で届きそうで届かない姿を追い続けた。
〈女神のようなその差し出した手〉を掴もうと、走って走って走って。
すぐそこなのに。
もう、すぐそこなのに届かない。
もう少しで届きそうなところで、その〈女神のようなその差し出した手〉は遠ざかる。
こんな夢、以前にも見たことがあるのだろうか。
いや、初めて見る夢だ。
なのにどこか懐かしく、僕に安らぎを与えてくれる気さえする。
何故だろう。
いや、今日はそんなことを考えているヒマはない。
急いで支度をしなければ。
そう。
今日はいよいよ『エピローグデート』の日だ。
逸る気持ちを抑えつつ、深呼吸とともに早めに身支度を整え、昨日ピカピカに磨き上げておいた愛車に乗る。
彼女とデートをするなんて、記憶の戻らない僕にとっては初めての出来事で。
あの事故の後入院していたときは、毎日彼女が病室に来てくれていたとはいえ、それはデートとはほど遠いものだし、退院のときにあんなことがあって。
それから彼女に会ったのは親友の家で一度きり。
それもデートというものではなかった。
皮肉なもんだな。
あんなに望んでいた彼女とのデートが、僕にとっての彼女との最初のデートが……。
最後のデートになるなんて。
『エピローグデート』
我ながら哀しい名前をつけたものだ。
そんなことを考えながらも、今日という日を忘れないでいよう、忘れないようにいい想い出を作ろうと心に決めた。
シートベルトをして、エンジンをかける。シフトレバーを『D』レンジに移動させて、サイドブレーキを解除する。
少し大きめの呼吸をひとつして、ゆっくりとアクセルを踏む。
今日という日を最高の日にしたい。
さあ、いよいよ待ち合わせの場所に着いた。
僕は早めに着いて待っていることにした。
流石に彼女の家まで迎えに行くのは、気が引ける。
少し待つと、サイドミラー越しに彼女が見えた。僕は車を降り、彼女に手を振る。彼女は僕を見つけると、ニコッとして、右手を大きく振り、それからロングヘアをなびかせながら走ってきた。
「おはよう。走らなくても、時間はたっぷりあるよ」
「おはよう。待たせてごめんね」
「車だから平気だよ。じゃ、行こうか」
彼女を助手席に乗せて出発する。
「今日のプランを発表します!」
「はーい、お願いしまーす」
「まず、ドライブがてら海沿いの国道を走って、海辺のレストランで早めの昼食。そのあと、海岸のすぐそばにある水族館に行って、夕方はそのまま砂浜で夕陽を眺め、それから港にあるホテルでディナー。その後、山のドライブウェイを登って、夜景スポットから100万ドルの夜景観賞。それでいよいよお開きとなります」
「すっごーい、完璧だね。今日は思いっきり楽しみましょう!」
さあ、いよいよ僕たちの最初で最後のデート、『エピローグデート』が始まる。
お読み下さりありがとうございました。
いよいよ『エピローグデート』の始まりです。
次話「『エピローグデート』(3)」もよろしくお願いします!