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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第8章 優柔不断
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やっぱり、僕は……。(1)

「恋人……でもいいかな」


 ヤツ・・の想いにほだされて、いや、それだけじゃない。

 彼女がまだ僕のことを好きでいてくれた。愛想を尽かしていたわけじゃない。

 ずっと想っていてくれたなんて。


 だけどそれも今となっては、もうむなしい。

 彼女が結婚してしまうと知って、今更知ってもただ切ないだけの想い。


 もう一度やり直すなんてことはないのだから。

 もう永遠に手の届かない女性ひとになってしまうのだから。


 そう、『エピローグデート』の後では。


 だから僕はヤツ・・に言った。



「恋人……でもいいかな」


 喜んでいるヤツ・・を見ていると心が痛むが、呼び方が変わるだけで、今までの関係と何ら変わることはない。


 優柔不断な、ズルい選択だ。


 これで彼女のことを忘れることができるだろうか。





 しかしヤツ・・はそんな僕のこころを知ってか知らずか、嬉しそうにしている。

 あの優柔不断な選択をして以来、休みの日に出かけるときも『デート』だと言っては、はしゃいでいる。


 そんな日々を当り前のように過ごしていると、はじめはあった罪悪感は次第に薄れてゆき、「まあこんな関係もいいかな」なんて都合のいいように思いはじめていた。



 彼女のことを忘れたわけじゃない。

 むしろ忘れたくない。


 もう手の届かないところにいってしまったとしても、たとえ二度と逢えなくなろうとも、僕は彼女のことをこれから先も……。




『エピローグデート』かぁ。


 ふたりのこころにけじめをつけるための、哀しく切ない最後のデート。

 お互い想い合っているのに結ばれることのない、そんな運命にあらがうように。


 そんなことをしたって、むなしいだけかもしれない。

 そんなことをしても、なんの意味もないかもしれない。

 だけど僕たちは、僕と彼女はその哀しい結末を選択した。


 最後に1日だけの『恋人同士』になると。





 しばらく経った6月のある日、彼女から結婚式への招待状が届いた。


 でも、すぐに返事を出す勇気はない。

 答えは既に決まっているというのに。


 時間は進んでゆく。

 誰にも平等に進み……過ぎてゆく。


 立ち止まることも、振り向くことさえ許されず、延々と続くんだ。

 時計の針を止めることはできても、時間を止めることなんてできやしない。


 いくら後悔しても、巻き戻すこともできないんだ。


 なら運命に身を任せてみるのもいいんじゃないか?

 この引き裂かれそうな想いも、時間ときとともに消えゆくかも。


 それとも運命に逆らってみるか?





 答えは既に決まっている。

 6月のある日、彼女から結婚式への招待状が届いた。


 返信は……少し先にしよう。



お読み下さりありがとうございます。


次話「やっぱり、僕は……。(2)」もよろしくお願いします!

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