やっぱり、僕は……。(1)
「恋人……でもいいかな」
ヤツの想いにほだされて、いや、それだけじゃない。
彼女がまだ僕のことを好きでいてくれた。愛想を尽かしていたわけじゃない。
ずっと想っていてくれたなんて。
だけどそれも今となっては、もう空しい。
彼女が結婚してしまうと知って、今更知ってもただ切ないだけの想い。
もう一度やり直すなんてことはないのだから。
もう永遠に手の届かない女性になってしまうのだから。
そう、『エピローグデート』の後では。
だから僕はヤツに言った。
「恋人……でもいいかな」
喜んでいるヤツを見ていると心が痛むが、呼び方が変わるだけで、今までの関係と何ら変わることはない。
優柔不断な、ズルい選択だ。
これで彼女のことを忘れることができるだろうか。
しかしヤツはそんな僕のこころを知ってか知らずか、嬉しそうにしている。
あの優柔不断な選択をして以来、休みの日に出かけるときも『デート』だと言っては、はしゃいでいる。
そんな日々を当り前のように過ごしていると、はじめはあった罪悪感は次第に薄れてゆき、「まあこんな関係もいいかな」なんて都合のいいように思いはじめていた。
彼女のことを忘れたわけじゃない。
むしろ忘れたくない。
もう手の届かないところにいってしまったとしても、たとえ二度と逢えなくなろうとも、僕は彼女のことをこれから先も……。
『エピローグデート』かぁ。
ふたりのこころにけじめをつけるための、哀しく切ない最後のデート。
お互い想い合っているのに結ばれることのない、そんな運命に抗うように。
そんなことをしたって、空しいだけかもしれない。
そんなことをしても、なんの意味もないかもしれない。
だけど僕たちは、僕と彼女はその哀しい結末を選択した。
最後に1日だけの『恋人同士』になると。
しばらく経った6月のある日、彼女から結婚式への招待状が届いた。
でも、すぐに返事を出す勇気はない。
答えは既に決まっているというのに。
時間は進んでゆく。
誰にも平等に進み……過ぎてゆく。
立ち止まることも、振り向くことさえ許されず、延々と続くんだ。
時計の針を止めることはできても、時間を止めることなんてできやしない。
いくら後悔しても、巻き戻すこともできないんだ。
なら運命に身を任せてみるのもいいんじゃないか?
この引き裂かれそうな想いも、時間とともに消えゆくかも。
それとも運命に逆らってみるか?
答えは既に決まっている。
6月のある日、彼女から結婚式への招待状が届いた。
返信は……少し先にしよう。
お読み下さりありがとうございます。
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