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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第8章 優柔不断
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優柔不断(7)

 次の日、ヤツ・・と食事の約束をしていた。

 昨日のことが心にひっかかり、少々気が重い。

 だけどひとりで家にいるのもなんだし、わざわざ断りの連絡を入れるのもなんだし。

 まあ、気晴らしにでもなればと出かけることにした。


 案の定、ヤツ・・といてもずっと上の空だった。


 彼女がまだ僕を好きでいてくれていたなんて。

 そう想うだけでいつもの自分ではいられない。


 冷静な判断なんてできっこない。

 平静を装うなんてできやしない。



「どうしたの? 今日は何か元気なかったね」


 いつもと変わらず振る舞ったつもりだけれど、なにか感じ取ったのか。


「そうか? いつもと変わらないよ」


「彼女のこと考えてたの?」


 やはり女性のカンは鋭い。

「はい、そうです」と言えるはずもなく。


「そんなことないよ」


 僕は……。


「うーん、気になるなぁ」


「気のせいだよ」


 はぐらかす。



「じゃあ、聞いてもいいかなぁ?」


「何でもどうぞ」


 心の中を悟られまいと。


「私たちって……どういう関係?」


「どういうって?」


 友達だって前に言ったはずだが、それでは不満なのか。


「友達? 恋人? それともただの同期?」


 突然のヤツ・・の質問に、僕はズルい返答をした。


「友達以上恋人未満ってとこかな」


 ふうとため息交じりの息を漏らし、ヤツ・・は続ける。


「そう……か。やっぱりね。まだ恋人にはなれないよね。でも、友達以上にはなったんだ。それだけでも嬉しい」


 嬉しそうにそう言ったヤツ・・の言葉に、少し腹が立った。


「……なんで。なんで喜んでんだ? 僕は当たり障りのない、都合のいい返事をしたんだぞ」


「まだ彼女のこと好きなんでしょ? 解ってる。私のせいで2人が別れたことも、悪いと思ってる。だから、あなたがいつか私だけを見てくれるようになるまで、気長に待ってる」


 いつものヤツ・・からは想像もつかないような言葉に、少し動揺した。


「どうして……こんな優柔不断な僕に、どうしてそこまで」


 だけど。


「だって好きなんだもん」


 彼女がまだ僕を好きでいてくれていたなんて、と昨日のことが蘇る。

 

「いつまで待ってたって、僕がお前を好きになる保証なんてないんだぞ」


「一緒にいられるだけでいい」


 彼女がまだ僕を好きでいてくれていたなんて。


「お婆さんになっちゃうよ」


 そう想うだけでいつもの自分ではいられない。


「それでもいいもーん、そんなに長く一緒にいられるなら」


 冷静な判断なんてできっこない。


「あ、でもお前の方が僕を嫌いになるかもな」


「それはなーい」


「そんなの解んないよ、先のことなんてどうなるか」


 そうだよ。

 先のことなんてどうなるか、誰にも解らないことだ。


 だけど。

 彼女がまだ僕のことを……。


 「解るもーん」


「何で解るんだよ」


 好きでいてくれた。


「だって大好きなんだもん」


 そんなことを今更聞いて、


「軽々しく好き好き言うな!」


 平静を装うなんてできやしない。


「じゃあ真剣に。大好きなんだから」


 冷静な判断なんてできっこない。



「恋人……でもいいかな」


 ヤツ・・の想いにほだされて、つい言ってしまった。


「ホント? 本当に?」


「ああ、本当だ」


 これで彼女のことを忘れることができるだろうか。

 喜んでいるヤツ・・を見ていると心が痛むが、呼び方が変わるだけで、今までの関係と何ら変わることはない。


 優柔不断な、ズルい選択だ。



お読み下さりありがとうございました。


次話「やっぱり、僕は……(1)」もよろしくお願いします!

エピローグデートの行方もお楽しみに♪

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