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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第8章 優柔不断
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優柔不断(6) 

 もう叶わぬことと知りながらも、彼女の返答にかすかな期待を抱いてしまう諦めの悪い自分がいる。

 たとえ友達としてでも、また彼女と会いたいだなんて。


「そうね。……じゃあ、結婚式までに、1回だけデートしよっか」


 え、デート……。今更そんなことしてどうなる?


「え、でも、婚約者に悪いよ」


 余計に辛くなるだけじゃないか。


 友達として会うのと、デートっていうんじゃ、たとえ同じことをするにしても気持ちの上で違うんだよ。

 もう、楽しい時間を過ごしても先のない関係。

 そんな苦しいデートってあるのか?


「ううん、あなたとのことは話してあるの。好きな人がいて、その人と別れることになったけど、心の整理がついていないし、その人を忘れるためにお見合いしたってことも」


 今頃になってそんなこと言うなんて。


 僕の気持ちが揺さぶられる。

 抑えていた感情が一気に吹きだした。


「本当に? 僕に愛想を尽かしたから、お見合いしたのかと……。じゃあ。じゃあ、今からもう一度やり直すっていうのは?」


 僕の気持ちが、ずっと心の奥にしまっていた僕の気持ちが、ついに口をついてでてしまう。


「そうしたい気持ちもあるけど、ここまで話が進んでしまうと……」


 やっぱり。

 困った顔つきで微苦笑を浮かべる彼女を見て、それ以上言えなかった。


「ごめん、困らせるつもりはなかったんだ。今の話は忘れて」


 もっと自分勝手に振る舞えたなら、もう一押しすることもできるのだろうか。

 もっと早くに自分の気持ちを正直に話せていたなら、間に合っていたのだろうか。


「結婚式までは悩んでいたとしても、式を境に自分のことだけを見てほしい。だから、それまでにちゃんと心に『けじめ』をつけるように、って言われてるの」


 『けじめ』、か。

 父親にも言われた言葉だ。


「そうか、いいよ。明日に向かって一歩を踏み出すための、『けじめ』のデート……か。物語の終わりの、『エピローグデート』……だね」


 けじめ。

 今の僕には一番似つかわしくない言葉だ。


 優柔不断。

 この言葉が一番似合っている。


 ヤツ・・とのこともハッキリさせないままに、彼女とのことも踏ん切りがつかないなんて。

 僕ってこんなにダメなヤツだったんだろうか。

 自分でも情けない。


「そうだね。『エピローグデート』だね」


『エピローグデート』だなんて洒落た名前を口走ってみたけれども、哀しいデートに違いない。


「解った。いつでもいいから、キミのタイミングで行こう」


 本当にいいのか?


「うん、電話するね」




* * *



 その夜は、なかなか寝つけなかった。彼女があんな風に言うなんて。


 僕のことを忘れるためにお見合いしただなんて。

 今頃になって、どうしてそんなこと言うんだ?


 僕はどうすれば……。忘れようと、折角忘れようとしていたのに。


 もっと早くに、もっと早くに!


 せめて彼女がお見合いをする前に解っていれば。


 いや、それは単なる逃げ口上だ。

 解っていればなんとかなったなんて。

 自分はどうだ?

 なんとかしようと努力をしたか?


 相手の気持ちをおもんばかって……て。

 彼女の気持ちを優先して……って。

 それで彼女を忘れるために仕事に没頭?


 なんだそれ。


 それで今になって、彼女の気持ちが解ったからって、またやり直したいだなんて。

 もっと早くに、だなんて。


 なんだそれ。


 そんな虫のいい話。


 単なる自分ご都合主義じゃないか。


 全てはハッキリしない優柔不断な自分が招いたこと。


 

 ああ、今更取り戻せない時間だけが、過ぎてゆく。



お読み下さりありがとうございます。


次話「優柔不断(7)」もよろしくお願いします!

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