優柔不断(3)
忙しさも一段落ついて、定時で仕事を終えた帰り道。
地元の駅前広場を歩いていると、遠目に1人の女性が、数人の男にしつこく誘われているのが見える。
明らかに嫌がっている女性に絡む男たち。
見過ごすことができなくて、僕は迷わず近づいて、声をかけた。
「おい! 僕の彼女に何か用か!」
僕は男たちを睨みつける。
「はあ? なんだと?」
ヤツらも睨み返してくる。少し緊迫したムードになった。
でも、僕は怯まない。
少しでも弱気を見せた方が負けだから。
「そっちこそなんだよ!」
すると奴らは小さく舌打ちをして、いとも簡単に立ち去って行った。
ふっ、口ほどにもないヤツらだな、なんてドラマのセリフのような言葉を心の中で呟いてみる。
「大丈夫ですか?」
残された女性に声をかける。
「はい。ありがとうございました」
聞き覚えのある声音だが、まさか。
振り返った女性は、
……!
彼女だった。
「あ……」
にっこり笑う彼女は、いつになく眩しくて。
「久しぶりだね」
こんな偶然ってあるのだろうか。
驚きと嬉しさと切なさと、なにものかも解らない気持ちが入り交じった状態で……僕は平静を装う。
「大丈夫だった?」
「うん、ありがとう」
僕は平静を装う。
「どういたしまして」
「ふふっ、前にもこんなことあったね」
「そうだっけ?」
「うん、高校生の時にね。花火大会で。さっきみたいにあなたが助けてくれた」
嬉しそうに話す彼女。
「……ごめん」
僕の知らない記憶。高校生の時の出来事。
「あ、覚えてないよね。ごめんね」
バツが悪そうに苦笑いをする彼女に、
「いや、それよりごめんね、彼女なんて言って。婚約者に叱られるね」
僕は平静を装う。
「大丈夫、助けてくれたんだから。それに、そんなことでとやかく言う人じゃないから」
なんだろうこのもやもやは。
「いい人なんだね」
婚約者の話なんて聞きたくもない。
「うん、あなたと同じくらいにね」
「じゃあ、滅茶苦茶いい人じゃないか」
なんて冗談を言ってみる。
「送って行くよ」
僕は平静を装う。
「その前に、ごはん行かない?」
婚約者のいる彼女の急な申し出に、本来なら断るべきなのだろうが、僕にはそんな勇気はない。
ほんの少しの間でも彼女といられるなら、世間一般で言うところの常識なんて今の僕には関係ない。
「そうだね、お腹すいたね。何が食べたい?」
彼女にとっては僕はただの友人なんだから。
「うーん、イタリアン」
だから僕も友人のフリをする。
「よし、じゃあ行こう」
本心とは裏腹に。
お読み下さりありがとうございました。
思いがけず彼女と再会したオレ。
平静を装いふたりで食事に行くのだが……。
次話「優柔不断(4)」もよろしくお願いします!