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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第8章 優柔不断
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優柔不断(3)

 忙しさも一段落ついて、定時で仕事を終えた帰り道。

 地元の駅前広場を歩いていると、遠目に1人の女性が、数人の男にしつこく誘われているのが見える。

 明らかに嫌がっている女性に絡む男たち。

 見過ごすことができなくて、僕は迷わず近づいて、声をかけた。


「おい! 僕の彼女に何か用か!」

 

 僕は男たちを睨みつける。


「はあ? なんだと?」


 ヤツらも睨み返してくる。少し緊迫したムードになった。

 でも、僕はひるまない。

 少しでも弱気を見せた方が負けだから。


「そっちこそなんだよ!」


 すると奴らは小さく舌打ちをして、いとも簡単に立ち去って行った。

 ふっ、口ほどにもないヤツらだな、なんてドラマのセリフのような言葉を心の中で呟いてみる。


「大丈夫ですか?」


 残された女性に声をかける。


「はい。ありがとうございました」


 聞き覚えのある声音だが、まさか。



 振り返った女性は、


 ……!


 彼女だった。



「あ……」


 にっこり笑う彼女は、いつになく眩しくて。


「久しぶりだね」


 こんな偶然ってあるのだろうか。

 驚きと嬉しさと切なさと、なにものかも解らない気持ちが入り交じった状態で……僕は平静を装う。


「大丈夫だった?」


「うん、ありがとう」


 僕は平静を装う。


「どういたしまして」


「ふふっ、前にもこんなことあったね」


「そうだっけ?」


「うん、高校生の時にね。花火大会で。さっきみたいにあなたが助けてくれた」


 嬉しそうに話す彼女。


「……ごめん」


 僕の知らない記憶。高校生の時の出来事。


「あ、覚えてないよね。ごめんね」


 バツが悪そうに苦笑いをする彼女に、


「いや、それよりごめんね、彼女なんて言って。婚約者に叱られるね」


 僕は平静を装う。


「大丈夫、助けてくれたんだから。それに、そんなことでとやかく言う人じゃないから」


 なんだろうこのもやもやは。


「いい人なんだね」


 婚約者の話なんて聞きたくもない。


「うん、あなたと同じくらいにね」


「じゃあ、滅茶苦茶いい人じゃないか」


 なんて冗談を言ってみる。



「送って行くよ」


 僕は平静を装う。


「その前に、ごはん行かない?」


 婚約者のいる彼女の急な申し出に、本来なら断るべきなのだろうが、僕にはそんな勇気はない。

 ほんの少しの間でも彼女といられるなら、世間一般で言うところの常識なんて今の僕には関係ない。


「そうだね、お腹すいたね。何が食べたい?」


 彼女にとっては僕はただの友人なんだから。


「うーん、イタリアン」


 だから僕も友人のフリをする。


「よし、じゃあ行こう」


 本心とは裏腹に。



お読み下さりありがとうございました。


思いがけず彼女と再会したオレ。

平静を装いふたりで食事に行くのだが……。


次話「優柔不断(4)」もよろしくお願いします!

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