優柔不断(2)
目覚まし時計の凄まじい音で飛び起きた僕は、いつものように身支度を整え階下に降り、家族との朝食を摂るべく食卓テーブルにつく。
相変わらず母の手料理は格別で、そのおかげもあってか会話も弾む。
「それで、どうだ」
父の問いかけに答える。
「べつに」
「そんなわけないでしょう?」
母の問いかけに答える。
「なにも」
「それはおかしいよ」
妹の言葉に返す言葉もない。
「おにいちゃん! しっかりしてよ!」
「しっかりしてるよ」
少なくともお前よりはな。
「一体なに考えてるの?」
「なにも」
そう、なにも考えてない。
あの日以来。
彼女がお見合いをしたと聞いたあの日以来……僕の時計は止まったままだ。
ただなんとなく朝起きて会社に行って。
まあ、仕事は一生懸命に力を尽くすが。
会社が終わってただなんとなく家に帰って。
たまには同期と飲みに行ったりして。
たまにはヤツと出かけたりする。
ある意味、なんの変哲もない平穏な日々を堪能している。……なんてな。
「その気もないのに、ヘンに気を持たせるような態度は、かえって相手を傷つけることになるのよ」
妹もこんなことを言うようになったのか。
「わかってるよ」
解ってるよ、そんなことお前に言われなくてもな。
「お前はいつからそんな無責任なやつになったんだ」
父親の落ち着いた声音は、ある意味胸に刺さる。
「そんなつもりはないよ」
いっそのこと叱ってくれればいいのに。
「じゃあ、どんなつもりなんだ」
どんなつもりって。
どんなつもりもないから答えられるはずもなく。
「男としてちゃんとけじめをつけなきゃならんぞ」
最近ヤツと出かけることが多くなったのを心配してか、みんなしていらぬお節介を。
そんな関係じゃないんだよな。
「わかってるよ」
途切れた会話は少しその場の空気を重くしたが、またいつものように鞄に弁当箱を詰め込んで会社へ向かう。
今日も平穏な1日でありますように。
いつものようにいつものごとく会社に着くと、案の定ヤツが駆け寄ってきた。
「ねえねえ、明日のお休み、デートしない?」
最近は休みの前になると必ず繰り返されるこの会話。
もう、うんざりと言いたいところだが、以前とは違い、この会話もそれほど悪くはないな、なんて。
「はあ? デートはしないよ」
そしてお決まりの返事。
コイツとはあくまでも友人としての付き合いだから、デートはしない。
「じゃあ、食事ならどう?」
「まぁ、食事くらいなら。でも、デー……」
「デートじゃない、でしょ。いいのいいの、それでもいいもーん。じゃ、明日ねー」
ふぅ。
いつものように嬉しそうに走り去って行くヤツの背中を見送って思う。
……いい加減ヤツとのこと、どうするのか考えないとな。
いつまでもこんな中途半端な関係だと、辛いだろうし。
今朝、父親にも言われたように、けじめを……。
でも、今の僕には友達以上恋人未満としか……。
お読み下さりありがとうございました。
次話「優柔不断(3)」もよろしくお願いします!