優柔不断(1)
普通に、穏やかに。
平穏な1日を過ごしたい。
高校生のころからずっとそう思って生きてきたわけだが、最近たまに考える。
『普通』ってなんだ?
なにを基準に、なにを以て普通というのだろう。
今までは特にそんなこと考えもしなかったが、ある時ふとそう思ってから気になりだした。
以前ヤツとちょっとした言い合いをした時のことだ。
いつものように会社で腕を組んできたり、いちゃついたりしてくるのにうんざりして。
しかも彼女とのことがあった後で、その原因になったヤツについ腹立ち紛れに言ったときのこと。
『お前には常識ってものがないのか?』
『常識って?』
『人の気持ちも考えずに自分のことばっか。相手を思いやるってことを知らないのか』
『思いやってるよ』
『なら、ちょっとは遠慮しろ』
『遠慮って?』
『人の心にズカズカと土足で入ってくるなってこと』
ったく、そんなことも考えられないのか。とその時は思った。
『私があなたの退院の日にしたことは、あなたと彼女がうまくいかなくなって、結果的にはあなたたちにはよくなかったことかもしれない。だけど、私はあの時言ってよかったと思ってる』
『はあ? お前ってホントに自己中だよな』
『あなたと彼女を傷つけることになったことは反省してる。でも、言ったことは後悔はしてない』
キッパリと言い放ったヤツの眼差しは真剣で、僕の方が一歩引いてしまうほどだった。
『どういうことだ』
『あの時言った通りよ。気づいていないなら教えてあげようと思っただけ』
『そんな、人の気持ちも考えずに余計なことを』
そのせいで、彼女と会えなくなったわけだから。
『それがあなたたちにとっては非常識だって言うんでしょ? でも私から言わせれば現実逃避にしか思えなかった。それを教えてあげるのは普通のこと』
『お前にとっての普通ってなんだ? お前にとっての常識は僕たちには非常識だ』
『そう。人それぞれ価値観って違うのよ。自分のと違うからって、それを人に押しつけないで』
その時ハッとしたんだ。
人それぞれ顔つきや体型が違うように、ものの見方、考え方が違って当り前なんだ。
自分の基準だけで物事を計るのはちょっと違うのかな、なんて。
もっと大きな心の目で周りを見つめることが大切なのかなって。
それからかな、ヤツに対して以前のように毛嫌いしなくなっていったのは。
嫌なところだけでなく、もっと良いところを見つけてみてもいいかな、と思いだしたのは。
お読み下さりありがとうございました。
次話「優柔不断(2)」もよろしくお願いします。
更新は明日朝の予定です。