表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第7章 それから
56/110

それから(5)

「みーっけ」


 不意に腕を組まれ、我に返った。


 親友の家で久しぶりに彼女と再会して、また友達として仲良くしていこうと話し合った矢先、彼女がお見合いをしたと告げられた。

 ひどく動揺した僕は、親友宅をあとにして、ただひたすら歩き続けた。

 どこをどう歩いたか覚えていないほどに。


 気がつけば駅前広場まで来ていた。


「な、なんだ、なんだ?」


 とっさに腕を振り払うと、


「ケチ~」


 ヤツ・・だ。


「お前、どうしてこんなところに?」


 よりによってこんなタイミングで、一番会いたくないヤツに偶然出会うなんて。

 僕もついてないな。


「お友達のお家がこの近くだからその帰り。ねえねえ、せっかくだからお茶しようよ~」


「何でお前と?」


 今は誰とも話したくない。

 自分の気持ちを落ち着かせたい。


「こんなところで偶然逢えるなんて、なんか運命を感じない?」


 なに言ってんだコイツ。


「は? んなもん感じない。感じたくもない」


 今はそっとしておいてほしい。


「またまた~。照れなくてもいいんだよ。うふっ」


「もう、僕に構うなよ」


「いいからいいから、はいこっちー」





 いつもだったら断固断るんだが、今日の僕は冷静さを失っている。

 彼女に引っ張られるまま、近くのカフェでお茶してるなんて。


 はぁー、何やってんだかな。

 でも、お茶ぐらいなら、ま、いっか。ヤツ・・も楽しそうに喋ってるし、気を使わなくてすむし。


「ふっ」


「何? 何がおかしいのぉ?」


「いや、よく回る口だなぁと思って」


「だって、嬉しいんだもん、はじめてお茶できて」


「そうか」


 これぐらいのことで、こんなにはしゃいじゃって、ちょっと可愛いとこあるな。

 ……そんな風に思うなんて、やっぱり今日の僕は、冷静さを失っている。


「さ、もうそろそろ帰ろうか」


「うん」


 カフェを後にして駅まで向かう途中、ヤツ・・はちょっともじもじしながら言いにくそうに話しかけてくる。


「……ねえねえ。明日、母の日のプレゼントを買いに行くの。一緒に行ってくれない?」


「え、そんなの女友達と行けばいいじゃないか」


「もう、鈍感ねぇ。遠回しにデートに誘ってるんじゃないの!」


「え?」


 コイツにも、遠回しの意味が解るんだ。


「だからぁ、母の日のプレゼントっていうのは口実でぇ。デートに誘ってるの! ……やっぱりダメかなぁ?」


 照れくさそうに上目づかいで覗き込んでくる。

 こんなにしおらしいところもあるなんて、意外だ。

 

 今日の僕は冷静さを失っている。

 今までコイツに抱いていたイメージとは違う一面を見て、つい気を許して言ってしまった。


「……いいよ」


「本当?」


 驚いたような表情で聞き返してくる。


「ああ。デートっていうんじゃなくて、一緒に出かけるだけなら」


「本当に?」


 まだ信じられない様子で聞き返してくる。


「うん」


「ホントのホントの本当に?」


 ぱあっと明るくなった表情で聞き返してくる。


「本当だよ。でも、くれぐれも言っておくからな、デートじゃないゾ」


 ここは念を押しておかないと、勘違いされると困るからな。


「うん、それでもいい。……うっ」


「な、何泣いてんだよ、こんな街中で。僕が泣かせてるみたいじゃないか」


 もう、勘弁してくれよ。

 誰かに見られたらどうすんだよ。


「だって嬉しいんだもん。ヒック……1年以上ずっと、ずーっと大好きだったんだから」


 そうなんだ。

 片想いの相手と過ごせると思うだけで泣いちゃうなんて。

 口ではあんな言い方してたけど、コイツもやっぱ女子なんだな。

 そんな風に思えてくるなんて、やっぱり今日の僕は冷静さを失っているのかな。


「はいはい。もう泣くな」


「うえーん」


「それ以上泣くと、もう明日行かないぞ」


「うっ」


 僕に言われて必死で泣き止もうとしているところが、ちょっとかわ……やっぱり今日の僕は、どうかしている。


「じゃあな」


「また明日ねー、バイバーイ」


 ふうとため息をついて、嬉しそうに帰って行くヤツ・・を見送る。





 次の日、無邪気にはしゃいでいるヤツ・・と1日過ごしていると、だんだんとヤツ・・が僕たちにしたことに対する腹立たしい気持ちが……薄らいでいくのが自分でも解った。


 もうなんのわだかまりもないと言えば嘘になるが、ヤツ・・に対して以前とは違う感情が芽生えていくのが……。





 それから次第に、ヤツ・・と2人で過ごす時間が増えていった。

 あくまでも、友人として。


 そう、友人として。



お読み下さりありがとうございました。


彼女のお見合いの話を聞いて動揺する「オレ」。

そんな時に、いつも毛嫌いしていた「ヤツ・・」と。

今後どうなっていくのでしょうか?

乞うご期待!


次話「優柔不断(1)」もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いいね機能付いたので、こっちに引っ越してきました! 利用頻度もなろうの方が圧倒的なので!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ