それから(2)
ゴールデンウィーク、久しぶりに親友宅を訪ねた。
約束の時間より少し早く着いてしまったが、とりあえずインターホンを鳴らす。
元気よく出てきた彼女ちゃんが、気持ちよく中に招き入れてくれた。
先客がいるとひと言告げられ、通されたリビングに入る。
先客って誰だろう。オレの知っているひとなのか?
とりあえず礼儀正しく挨拶を。
「失礼します」
少々かしこまってお辞儀をして、顔を上げるとそこには懐かしくも切ないひとが。
信じがたい再会に動揺してしまう。
そんな僕とは対照的に彼女はにっこり笑い、僕を見つめる。
「久しぶり」
これは夢なんだろうか。
いや、そんなはずはない。
「あ、ああ、久しぶり」
ドキンとした。
あんなに頑張って、頑張って忘れようとした彼女が、もう二度と会うこともないと思っていた彼女が、目の前にいる。
早足の鼓動が収まらない。
「何ボーッと突っ立ってんだ、早く座れよ」
目の前に突然現れた光景に、何が何だか解らずただ茫然としていたが、親友に促されるままにソファーに座った。
すると親友が真面目な面持ちで話し出す。
「お前らさ、あんな別れ方しちまって、ちょっと後味が悪いんじゃないかと思ってさ。一度ちゃんと話し合いした方がいいんじゃないか?」
一度ちゃんと話したかったよ。
でも、もうずっと前に諦めたんだ。
「でないと、お互い前に進めないもんね。ようく話してみて、友達を続けるっていう方法もあるしね」
彼女ちゃんが言うように簡単にいくのだろうか。
あんな想いをしたふたりが、何事もなかったかのように友達になれるのか?
「そうだよな。あんなに仲が良かったのに、あんなヤツの言葉で芋を切ったみたいに、プッツリ連絡取らないっていうのもなぁ。あれからもう4ヶ月近く経ったことだし、2人とも冷静になって、そろそろ話ができるんじゃないかな、と思って呼んだんだ」
「お節介かもしれないけど、私達はこれからも2人と仲良くしていきたいから」
「じゃ、俺たちはちょっと出てくるから、2人でゆっくり話し合えよ」
そう言うと、親友と彼女ちゃんは、子供ちゃんを連れて出かけていった。
残された僕たちは為す術もなく、バツの悪い沈黙の時間をただ過ごしているだけだ。
どのくらい時間が経ったのか、不意に彼女が立ち上がった。
「コーヒー入れるね」
「あ、ああ、ありがとう。砂糖とミルクは……」
「いらない、でしょ。知ってる」
「……そうだね」
それから色んな話をした。差し障りのない、たわいない話を延々と。とりとめのない話を無理矢理続けた。
でないとまた心の中の本心が、やっとの想いで押さえ込んだ熱がまた上がってしまいそうに思えたから。
一頻り話した後、彼女が唐突に言った。
「これからも、友達として接してもらえる?」
「え、どうしたんだ突然」
「どうかな?」
いいはずなんてない。友達だなんて。
だけど、ここで拒否をして、また彼女と連絡も取り合えない関係になってしまうのが怖かった。
だから僕は、自分の心にウソをついた。
「僕はいいけど、キミはそれでいいの?」
キミは友達でいいのか?
それ以上はもう望まないのか?
「うん、できれば。今更身勝手なこと言ってるのは解ってるけど、あれから時間も経って、自分自身を見つめ直すこともできたし。親友クンと彼女ちゃんにも、これ以上心配かけられないしね」
少々の苦笑いとともに発せられた言葉ではあるが、彼女にそう言われると、自分の本心はどうあれ、『断る』という選択肢は僕の中から消えてしまう。
「相変わらずキミは優しいね。解った。僕たちは友達だ」
僕は自分の心にウソをついた。
友達? それ以上を望んでいるというのに。
僕は自分の心にウソをついた。
そして彼女にも。
「ありがとう」
そう言った彼女の久し振りの笑顔。
それは僕の見たかった、心からの笑顔に感じた。
と同時にその微笑みが、心をもてあます自分に突き刺さった。
お読み下さりありがとうございます。
次話「それから(3)」もよろしくお願いします!