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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第7章 それから
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それから(1)

少し季節が進みました。

 季節は変わり、桜の花が新入社員を迎えている。僕たちの部署にも、4月中旬には去年の僕たちと同じように、何人か仮配属されてくる。僕ももう先輩だ、しっかりしなくては。


 ヤツ・・とは、いくら別々の部署になったとはいえ、会社に行くと、イヤでも顔を合わせる。

 悪気があったのか無かったのか、病院であんなことを言っておきながら、あれからも何事も無かったかのように、ケロッとして平気で僕にベタベタしてくる。

 そんなヤツ・・の態度にあきれながらも、『完全無視』なんてこと僕にはできるはずもなく。


 今日だって……。


「彼女と別れたんでしょ。じゃ、今フリーよねぇ。私、アタックしちゃおかなー」


 と腕を組んでくる。


「誰のせいだと思ってるんだ」


「誰のせい?」


 そう言いながら上目づかいで身体を密着させてくる。


「おい、やめろよ。ここは会社だぞ、何考えてるんだ」


「じゃあ、会社じゃなかったらいいの?」


 いや、そういう問題じゃなくて。


 どうもコイツには、遠回しの断りが全く通用しないようだ。


「おい、いいか、ハッキリ言っておく。僕はお前と付き合う気は全くない。いい加減、ベタベタしてくるのはやめてくれ。後輩もできた訳だし、変に誤解されるようなことはしないでほしい」


「誤解じゃなければいいんでしょ? この際、付き合っちゃいましょう!」


 やめてくれ。そんなに満面の笑みで言われても。


「はあ~? この際ってどの際だよ。ああ言えばこう言うヤツだなぁ」


 呆れてものも言えないとはこういうことか。


「エヘッ」


 悪びれもせず、ペロッと舌を出し肩をすくめるヤツ・・


「そんな可愛い言い方してもダメー。付き合うことは、絶対にない」


「ケチ~」


 初めは嫌だったこんなやりとりも、1年も続けば不思議と慣れてくる。それどころか、最近ではこの会話を楽しんでいる時さえある。


 ヤツ・・のせいで彼女と『さよなら』することになった訳で、ヤツ・・にはすごく腹が立っている。その反面、あんなことを言ってしまうくらい、人を傷つけることを言ってしまうくらい、僕のことを好きでいてくれるのかと思うと、それに応えられなくてちょっと申し訳ないという、前にはなかった気持ちも湧いてくる。


 まさかヤツ・・と付き合ったりすることはないだろうけど、少なくとも今では嫌なヤツではなくなってきている。


 人の気持ちって、変わっていくもんなんだな。この先、僕はどうなっていくんだろう。


 彼女との記憶は、今も戻る気配もない。

 本当に想い出せるのか?

 それともこのまま忘れていってしまうのだろうか。

 なにも想い出せないままに。


 今更記憶が戻っても、もうすべもない。


 ……もう彼女は、僕の傍にはいないのだから。



お読み下さりありがとうございました。


次話「それから(2)」もよろしくお願いします!

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