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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第7章 それから
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ちょっとした騒動(3)

 なんでも、ゴルフ場に着いた途端に雪が降り出したとか。しばらく様子をみていたが止むどころか、ますます大降りになってきたので、今日のゴルフコンペは中止になったということだ。


「それならそうと電話してくれれば」


 と、母の気持ちも解らないでもないが。


「いちいち電話することでもない」


 父は母の言いぐさに少し気分を害したようだ。


 今はそんなこと言わなくても、と内心ハラハラしている僕をよそに、また母は言う。


「お昼ご飯は食べてきたの? もう、なにも残ってないわよ」


「途中で食べてきたけど。帰って来た途端にそんな言い方はないだろう?」


 まあまあ、とふたりの間に割って入って納めたけれど。

 父が異変に気づくのは時間の問題だ。


 気を取り直した父が、ふと食卓テーブルに座るひとりに気づく。

 そう、借りてきた猫のように『ちょん』とかしこまって座っているその姿。


「お客さんがみえていたとは。いや、お恥ずかしいところを」


 まあ、それが普通の大人の言葉だろう。

 

 しばしの沈黙の後、意を決した様子でその『ボーイ』は、なにを思ったのかおもむろに立ち上がり、つかつかと父の前までやって来た。

 その上、まだ紹介もされぬうちに、ペラペラと自己紹介とともに妹との関係を話し出したではないか。


 初めは穏やかだった父の顔がみるみる変化していく。


 だから言わんこっちゃない。


 礼儀正しいところと、妹のことを大切に想っていることを見せたかったのだろうが。


 ……かえって裏目にでた。


「礼儀正しいとでもいうのか? 私の留守中を狙って」


「いえっ、決してそんなつもりでは」


 可哀相に『ボーイ』はすっかり恐縮してしまっている。


「現に今日の日を狙って来ているじゃないか」


「たまたまよ、お父さん」


「お前は黙ってろ」


「だって」


 さっきまであんなに楽しそうにしていた妹も、うっすらと涙目になってきた。


「私はこちらのお客様と話をしているんだ」


 人間、自分はよかれと思ってしたことでも、実際相手のいることならばよく考えてから行動に移さないと。


 案の定、父親の逆鱗げきりんに触れた。



 父にとっては可愛い可愛いひとり娘。

 大事に大事に育てた我が娘。


 いくら好青年であったとしても、気に入る訳がない。


 その人物がどうとかいう問題じゃないんだ。

 たとえどんなに好青年であろうとも、妹の彼氏というだけで気に入らないのだから。

 すんなりと話しを聞き入れるはずもない。

 まあ、気持ちは解るけど。


 なんとか自分を正当化しようと父は頑張る。


 わざわざ自分のいない時間帯を狙ってくるところが、そもそも気に入らない。

 と、そこは譲れないポイントのようだ。


 紹介もされていないのに、自分からベラベラと。

 調子のいいヤツだ。


 とかなんとか。


 天候の雷と父親の雷どちらが怖いのか。なかなかいい勝負だ。


 すったもんだを繰り返し、いよいよ僕の出番かな。



 僕は大人しく行方を見守っていたが、放っておけなくて、妹に彼を父に紹介するように促した。


 父は物事を順序立てて話せば、決してもの分かりが悪い方じゃない、というのを解っているから。


 妹が彼を紹介して、父は気持ちよく交際を許しましたとさ。

 めでたしめでたし。


 とはいかなくて。

 さっきよりは幾分落ち着いた様子の父ではあったが、あれだけ大反対したのだ。引っ込みもつかないし、そんなにあっさりと意見を変えるはずがない。


 ふたりのやり取りに今にも泣きだしそうな妹の顔を見ていると……。


 哀しき兄のさがかな。


 また勢いに任せて言ってしまう。

 本当は言いたくなかったひと言。


「許してあげれば?」


 いつかのアイドルのコンサートに行きたいと言っていた時と同じだ。

 可愛い妹をかばいたくなる。


 それから、今日僕が彼と接してみて感じた『良いところ』を、一生懸命父に伝えた。


 そう、一生懸命に。


 なんなら少し話を盛ってみたりして。


 父は最後には根負けしてしぶしぶ許したが、付き合うってだけでこれだと、何年先か解らない近い将来、『結婚したい』なんて相手を連れてきたときにはどうなるのだろう。


 父親が娘に持つ感情というのは、また特別なものなのかなと思う。



お読み下さりありがとうございました。


次話「それから(1)」もよろしくお願いします!

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