ちょっとした騒動(1)
休日、久し振りに目覚まし時計も気にせずに、ゆっくりと眠ることができた。
日頃の仕事疲れからか熟睡できたように思う。
ベッドから起き上がる前に、思いっきり背伸びをすると、眠気もとれて妙にすっきりと目覚めることができた。
無造作に掛け布団を脱ぎ捨て、自室を出て階段を降りる。
リビングに顔をだし、まずはお決まりの朝の挨拶だ。
「おはよう」
「あ、おはよう」
母はなにか嬉しそうにご馳走をこしらえている。
「わあ、美味しそうだね。そんなにたくさん作って、お客さんでも来るの?」
「ふふふ。まあね。あなたも早く顔を洗って歯を磨いてきなさい」
ああ、これもまた定番のお言葉。
平日は身支度を整えてからリビングに行くわけだが、休日は時間的余裕もあるからまずはリビングに顔をだす。
まあ、先に身支度を整えてから顔をだせばいいのだろうが、休日ぐらいはと油断するとこれだ。
まったく、僕をいくつだと思っているんだ。
そんな解りきったこと、毎回毎回言われなくとも。
同じことを言われるのも、そろそろ卒業したい。
「はーい」
とはいうものの、結局文句のひとつも言わずに洗面所に向かい、歯を磨く。
親の言いなりになって『おりこうちゃん』にしている訳じゃないんだ。
ただ面倒くさいだけ。
ひと言「うるさいなぁ」なんてことを呟きでもしたらどうなる?
それこそ、その何倍もの威力で言葉の嵐となって返ってくる。
まあ、1度くらいはどうなるのか試してみたい気もしないでもないが。
今はそんなことで無駄な労力は使いたくない。
波風立てずに平穏な1日を過ごしたい。それが常日頃から僕が一番望んでいることだ。
普通に、穏やかに。
そう願っていても、思うようにいかないのが人生ってもんで。
* * *
お昼前にひとりの来客があった。
インターホンが鳴ると、うちの女性陣は待ってましたと言わんばかりに玄関口に。
しばらく玄関先でワイワイとはしゃいでいたかと思うと、笑い声が聞こえてきたり。
そしてなにやら楽しそうにリビングに入ってくる3人。
母も妹も声のトーンがいつもより高くなっている気がする。
母、妹、ん?
誰だ?
ふたりに続いて見たこともないイケメンボーイが。
きっと大学生ぐらいだろうそのイケメン君は、僕から言わせればまだまだ『ボーイ』だ。
「おじゃまします」
邪魔するなら帰ってくれ、とも言えずに愛想笑いをする。
「いらっしゃい。えっと……」
「お兄ちゃん紹介するね」
まあ、大体の想像はつくけど。
妹の嬉しそうな、そしてちょっとはにかんだ可愛い笑顔を見ると、いくら鈍感なヤツでも解るよ。
「はじめまして。よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしく」
やっぱり。
最近妙にオシャレに気を使うようになったと思っていたら、妹にこんなイケメンの彼氏がいたなんて。
これは父が知ったら、大変な騒ぎになるだろうな。
それでわざわざ今日を選んだってことだな。納得。
今日は朝から雲行きが怪しい中、父は会社のゴルフコンペだとかなんとか言って、フルセット入りのゴルフバッグを持って、迎えの車にいそいそと乗り込んで行ったそうだ。
いくらゴルフは時期を選ばないといっても、なにもこんな寒い時期の、しかもこんな天候の日に行かなくても……と思うのは僕ぐらいだろうか。
お読み下さりありがとうございました。
次話「ちょっとした騒動(2)」もよろしくお願いします!