平穏な日々
それからの日々は淡々と過ぎていった。
毎日毎日同じことの繰り返し。
平穏な1日が、今日も始まる。
目覚まし時計の凄まじい音で飛び起きた僕は、相変わらず、いつものように身支度を整え階下に降り、4人揃って朝食を摂る。
「おはよう」
『おはよう』
難しい顔をして新聞を読んでいる父。
スマホの画面を見ながらにやにやしている妹。
ザ・元気印の母。
この光景もいつまで続くのだろうと、ふと思ってしまう。
妹だって大学を卒業したら就職して、結婚して……いつかはこの家から出て行くことになるだろう。
僕だっていずれは結婚して……出て行くのだろうか。
父母も今はまだ元気だが、いつまでも今のままでいてくれるとは限らない。
考えたくはないけれど、年をとるということはそういうことだ。
時間ってなんて残酷なんだろう。
自分の意思とは関係なく、また留まることなく流れてゆく。
時間だけは全ての人間に平等に与えられている。
有限であり、無情でもある時間。
それをどう使うかは本人次第だ。
朝食をすませ、母の手作り弁当をカバンに詰め込み、会社へと向かう。
「行って来ます」
玄関先で出かける合図をかけると、今日も1日の始まりだ。
「お兄ちゃん待って」
「ん、どうした?」
「駅まで一緒に行こう」
「珍しいな」
「いつまで一緒にいられるか解らないから、たまにはゆっくりしゃべりながら歩きたいなって思って」
妹も同じことを考えているのだろうか。
「そっか」
「いつまでも今のままの素敵なお兄ちゃんでいてね」
いつもは最寄りの駅までは足早に、冬の寒さに耐えながら歩くのだけれど、今日はゆっくりと妹との会話を楽しんだ。
あと何回こんな風に歩けるのだろうな。
駅で妹とは別れ、またいつものように満員電車に揺られる。
僕もいっぱしのサラリーマンだ。
会社に着けば始業時間まで同僚たちとたわいない話に盛り上がってみたり、真面目に仕事の話なんかしてみたり。
毎日同じことの繰り返し。
昨日と今日の違いってなんだ?
たまに同期と飲みに行くぐらいか。
『時間が解決してくれる』なんてよく言うけど、あの日、彼女への想いに終止符を打とうと決めたあの日以来、いつしか自分が機械仕掛けの人形のように感じて。
精一杯笑顔で頑張ろうと、思いっきり背中のネジを回したけれど。
ゼンマイが切れると止まってしまうのだろうか。
こころにぽっかりと空いた穴は、まだふさがる気配もないままに。
ただ時間だけが早送りのように過ぎてゆく。
ひとり取り残された時間の中。
淡々と過ぎてゆく日々。
いつものように平穏な1日が、今日も始まる。
ある意味こんな毎日って、僕が望んでいた平穏な日々と言えるのかもしれない。
いや、本当にこれが僕の望んでいた平穏な日々なのだろうか。
お読み下さりありがとうございました。
次話もよろしくお願いします!