元気を出して、明日も頑張る(2)
夕食後、自室に戻った僕は、ベッドで仰向けになり、天井を見ながら色々考えた。
今までのこと、これからのこと。
彼女とはたった3週間の想い出だけど、こんな短期間に、これほどまで人を好きになることってあるのか? それとも、頭のどこかにある記憶が、そうさせていたのか。
今までは彼女が傍にいてくれた。しかしこれからは、誰もいない。
これも運命だと、受け入れるべきなのか。自分を納得させる答えを探している。
考えても無駄だと解っていながらも、そうせずにはいられない。
答えなんて出るわけもないのに。
それに、あれこれ考えても、今の僕に出来ることは何もない。
でも、今日だけは、今日だけは少し落ち込んでも……いいかな。
3週間前の彼女との“出逢い”から“今日まで”のことを、順に思い出してみた。始まりから終わりまで、全て病院の中だけでの出来事。もしかしたら、まだ始まってさえいなかったのかも。
でも楽しかったな。そうだ、彼女といて楽しかったんだ。そのことを忘れちゃいけない。お互い嫌いになって『さよなら』した訳じゃない。しかも、自分が望んだ訳でもない。
それって、余計にキツいよな。
目を細め、天井の白い壁紙を見つめる。
ふぅー、今日は疲れたな。
母が言ってたように、今がどんなに辛くても、夜の後には、必ず明るい朝がやってくる。元気を出して、前を向いて歩いて行こう。そう言い聞かせ、今日はもう眠ろうか。
『元気を出して、明日も頑張る』
* * *
目覚まし時計の凄まじい音で飛び起きた僕は、いつものように身支度を整え、いつもより少し早めに会社へと向かう。
今日は3週間ぶりの出勤だ。11日間の正月休みがあったとはいえ、みんなに迷惑をかけたことに違いはない。その人達に、お詫びと挨拶をして回る。
みんな怒るどころか、子供を助けたことに、『よくやった』と褒めてさえくれた。思いやりの気持ちに、少し恐縮した。
たまっていた仕事に追われ、1日中大忙しだった。脇目もふらず、黙々と仕事を熟した。そうしていないと、自分の気持ちがやりきれなくて。ただひたすら、仕事に没頭した。その間は、彼女のことを、想い出さなくてすむから。
次の日も、また次の日も、仕事、仕事、仕事の毎日だ。
やがて少しずつ、彼女のいない日常にも慣れていった。
彼女のことは気になるが、親友たちとは今でも仲良くしているみたいで、時々様子を聞くことができる。
元気そうにしているということで、少し安心している。
僕も新しい人生を歩もうと、彼女を忘れる決心をした。いや、正確には、彼女との想い出――あの病院での3週間のことは、素晴らしい想い出として心の中に留めておくが、彼女への気持ちに別れを告げる決心をした。
それが今の僕にできる唯一のことだから。
お読み下さりありがとうございました。
次話「平穏な日々」もよろしくお願いします!