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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第6章 言えなかった言葉
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元気を出して、明日も頑張る(2)

 夕食後、自室に戻った僕は、ベッドで仰向けになり、天井を見ながら色々考えた。

 今までのこと、これからのこと。


 彼女とはたった3週間の想い出だけど、こんな短期間に、これほどまで人を好きになることってあるのか? それとも、頭のどこかにある記憶が、そうさせていたのか。


 今までは彼女がそばにいてくれた。しかしこれからは、誰もいない。

 これも運命だと、受け入れるべきなのか。自分を納得させる答えを探している。

 考えても無駄だと解っていながらも、そうせずにはいられない。

 答えなんて出るわけもないのに。


 それに、あれこれ考えても、今の僕に出来ることは何もない。


 でも、今日だけは、今日だけは少し落ち込んでも……いいかな。




 3週間前の彼女との“出逢い”から“今日まで”のことを、順に思い出してみた。始まりから終わりまで、全て病院の中だけでの出来事。もしかしたら、まだ始まってさえいなかったのかも。

 でも楽しかったな。そうだ、彼女といて楽しかったんだ。そのことを忘れちゃいけない。お互い嫌いになって『さよなら』した訳じゃない。しかも、自分が望んだ訳でもない。


 それって、余計にキツいよな。


 目を細め、天井の白い壁紙を見つめる。



 ふぅー、今日は疲れたな。


 母が言ってたように、今がどんなに辛くても、夜の後には、必ず明るい朝がやってくる。元気を出して、前を向いて歩いて行こう。そう言い聞かせ、今日はもう眠ろうか。


 『元気を出して、明日も頑張る』





* * *



 目覚まし時計の凄まじい音で飛び起きた僕は、いつものように身支度を整え、いつもより少し早めに会社へと向かう。


 今日は3週間ぶりの出勤だ。11日間の正月休みがあったとはいえ、みんなに迷惑をかけたことに違いはない。その人達に、お詫びと挨拶をして回る。

 みんな怒るどころか、子供を助けたことに、『よくやった』と褒めてさえくれた。思いやりの気持ちに、少し恐縮した。


 たまっていた仕事に追われ、1日中大忙しだった。脇目もふらず、黙々と仕事をこなした。そうしていないと、自分の気持ちがやりきれなくて。ただひたすら、仕事に没頭した。その間は、彼女のことを、想い出さなくてすむから。




 次の日も、また次の日も、仕事、仕事、仕事の毎日だ。

 やがて少しずつ、彼女のいない日常にも慣れていった。


 彼女のことは気になるが、親友たちとは今でも仲良くしているみたいで、時々様子を聞くことができる。

 元気そうにしているということで、少し安心している。


 僕も新しい人生を歩もうと、彼女を忘れる決心をした。いや、正確には、彼女との想い出――あの病院での3週間のことは、素晴らしい想い出として心の中に留めておくが、彼女への気持ちに別れを告げる決心をした。


 それが今の僕にできる唯一のことだから。



お読み下さりありがとうございました。


次話「平穏な日々」もよろしくお願いします!

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