元気を出して、明日も頑張る(1)
どのくらいそうしていただろう。僕は床に座り、ベッドにもたれかけていた。
気がつけば、さっきまで太陽の差し込んでいた窓から、今は差し込む街灯の光だけが、部屋を照らしている。
冬の日暮れは早い。
ああ、時間の経つのは早いなと思いつつも、何かをする気にもなれずにまた目を閉じてみる。
僕は僕なりに、心の整理をつけようとしていた。……けど、少し時間がかかりそうだ。
しばらくして、階下からの夕食を知らせる母の声に、ハッと我に返った。
『もうそんな時間か』
返事をしてゆっくりと立ち上がる。
もう、1階に降りるのだが、部屋を照らすスイッチを押してみる。
暗い部屋に灯る光は眩しく、辛いものに感じた。思わず目を閉じる。
ゆっくりと目を開け部屋を見渡すが、いつになく広く感じる。
そのまま部屋を後にして、階下でいつものように4人揃って夕食を摂る。
僕の様子を気づかってか、みんな少しぎこちない気がする。心配をかけまいと、いつもよりハイテンションな僕に、ご飯をよそいながら母が言った。
「大丈夫」
「え……」
「大丈夫よ。あなたはそうやっていつも回りを気づかって、自分の心を後回しにしているけど。無理しなくてもいいのよ。笑いたい時は笑って、泣きたい時には泣けばいい。腹が立ったら怒って、嬉しい時にはピョンと飛び跳ねるのよ」
そう言いながら母は、しゃもじを持ったままピョンと飛び上がった。
ぎこちない雰囲気が、一気に和らぐ。
僕の強張った頬が緩むのが、自分でも解った。
「そうだね。でも、母さんみたいに上手く飛び上がれるかな」
「お兄ちゃんなら大丈夫よ。妹の私が保証する。何かあったら相談に乗るよ。家族なんだから、遠慮は無用!」
「解ったよ。何かあった時は頼むな」
「……あと、私の相談にも乗ってね」
「そっちの方が大変そうだな」
みんなで笑い合ってする食事は、いつにも増して美味しく感じる。
そして一通り盛り上がった後に紡がれた母の言葉が、僕の心を軽くしてくれた。
「何があったか知らないけど、家に帰ってまで頑張らなくていいのよ。心配しなくても大丈夫。夜の後には、必ず朝が来るんだから。元気でさえいれば、何とかなるものよ」
元気でさえいれば。
「そうだな」
なんとかなる。
「そうそう。私だって、これでも色々と乗り越えてきたのよ」
「それでいつも元気なんだ」
「ふふふ。それでいつも元気なのよ」
母には感謝している。妹にも。そして何も言わず、3人の様子を優しい目で見守っていてくれた父にも。
そうだよな。生きていればいろんなことがある。いいことばかりじゃない。
それぐらい知ってるよ。だけど、自分の身に降りかかってきた時には、なんて情けない自分でいっぱいになるんだろう。
僕はまだまだ未熟だな。
そう思う。
お読み下さりありがとうございました。
次話「元気を出して、明日も頑張る(2)」もよろしくお願いします。
その後、物語が少し進みます。
どのような展開になるかは、お楽しみに!