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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第6章 言えなかった言葉
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元気を出して、明日も頑張る(1)

 どのくらいそうしていただろう。僕は床に座り、ベッドにもたれかけていた。

 気がつけば、さっきまで太陽の差し込んでいた窓から、今は差し込む街灯の光だけが、部屋を照らしている。

 冬の日暮れは早い。

 ああ、時間の経つのは早いなと思いつつも、何かをする気にもなれずにまた目を閉じてみる。


 僕は僕なりに、心の整理をつけようとしていた。……けど、少し時間がかかりそうだ。



 しばらくして、階下からの夕食を知らせる母の声に、ハッと我に返った。


『もうそんな時間か』


 返事をしてゆっくりと立ち上がる。

 もう、1階に降りるのだが、部屋を照らすスイッチを押してみる。

 暗い部屋に灯る光は眩しく、辛いものに感じた。思わず目を閉じる。

 ゆっくりと目を開け部屋を見渡すが、いつになく広く感じる。


 そのまま部屋を後にして、階下でいつものように4人揃って夕食を摂る。



 僕の様子を気づかってか、みんな少しぎこちない気がする。心配をかけまいと、いつもよりハイテンションな僕に、ご飯をよそいながら母が言った。


「大丈夫」


「え……」


「大丈夫よ。あなたはそうやっていつも回りを気づかって、自分の心を後回しにしているけど。無理しなくてもいいのよ。笑いたい時は笑って、泣きたい時には泣けばいい。腹が立ったら怒って、嬉しい時にはピョンと飛び跳ねるのよ」


 そう言いながら母は、しゃもじを持ったままピョンと飛び上がった。


 ぎこちない雰囲気が、一気に和らぐ。


 僕の強張った頬が緩むのが、自分でも解った。


「そうだね。でも、母さんみたいに上手く飛び上がれるかな」


「お兄ちゃんなら大丈夫よ。妹の私が保証する。何かあったら相談に乗るよ。家族なんだから、遠慮は無用!」


「解ったよ。何かあった時は頼むな」


「……あと、私の相談にも乗ってね」


「そっちの方が大変そうだな」


 みんなで笑い合ってする食事は、いつにも増して美味しく感じる。


 そして一通り盛り上がった後に紡がれた母の言葉が、僕の心を軽くしてくれた。


「何があったか知らないけど、家に帰ってまで頑張らなくていいのよ。心配しなくても大丈夫。夜の後には、必ず朝が来るんだから。元気でさえいれば、何とかなるものよ」


 元気でさえいれば。


「そうだな」


 なんとかなる。


「そうそう。私だって、これでも色々と乗り越えてきたのよ」


「それでいつも元気なんだ」

 

「ふふふ。それでいつも元気なのよ」


 母には感謝している。妹にも。そして何も言わず、3人の様子を優しい目で見守っていてくれた父にも。


 そうだよな。生きていればいろんなことがある。いいことばかりじゃない。

 それぐらい知ってるよ。だけど、自分の身に降りかかってきた時には、なんて情けない自分でいっぱいになるんだろう。


 僕はまだまだ未熟だな。


 そう思う。



お読み下さりありがとうございました。


次話「元気を出して、明日も頑張る(2)」もよろしくお願いします。

その後、物語が少し進みます。

どのような展開になるかは、お楽しみに!


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