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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第6章 言えなかった言葉
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言えなかった言葉(3)

 もうこれで彼女とは終わりなのか。

 本当に終わってしまうのか?


 あきらめの悪い想いが溢れるばかりだ。



 なにがいけなかったのか、どこで間違えたのか。

 事故に遭ってからのことを頭の中で繰り返す。


 無駄だと解っていても、そうせずにはいられない。


 だけどいくら考えても答えなどでるはずもなく。

 途方に暮れて、ふうと大きなため息を漏らす。


 そのまま視線をテーブルに移すと、その上に置かれたままの四角いビロード地のケースが目に入った。


 しばらくそれを見つめていたが、もうどうすることもできない。

 ビロード地の四角いケースを手に取り、そっと蓋を開けてみる。


 ……エンゲージリング。


 これを渡すと決めたとき、僕はどんな気持ちだったんだろう。そして、何と言って渡すつもりだったんだろう。


 ……今の僕になら解る。きっと僕が言ったであろう言葉。

 とても伝えたい言葉。今となってはもう言えない言葉。


 あの日、これを彼女に渡すために、待ち合わせ場所に向かっていたのか。

 あの日、この指輪を渡すために、彼女を想いながら向かっていたのか。


 あのクリスマス・イヴの日に……。


 僕の、いや、僕と彼女の人生が、違う方向に動き始めた。





 今の僕にあるのは、ただむなしさだけだ。

 どこで間違ったんだろう。一体どこが間違っていたんだろう。


 考えても考えても答えは見つからない。

 考えれば考えるほどに切なくもどかしい。


 それに今考えてみても、もう過ぎ去った時間ときは戻りはしない。

 そう想うとなにが正解だったかなんて解らなくなる。


 事故さえなければ――――でも、子供を助けたことは後悔していない。もし同じことが目の前で起こったら、また同じことをするだろう。たとえ今日の日が来ると知っていたとしても。



 きっと僕は記憶を失う前から、彼女のことをすごく大切に想っていたんだろうな。

 だから事故の時、とっさに僕にとっての一番大切なものを、大切な記憶を守ろうとして、頭の奥にしまい込んでしまったのかもしれない。



 大事に大事にしまい込みすぎて、なかなか探せないじゃないか。

 今更ながら、自分の情けなさにあきれかえる。


 人生って、思うようにいかないもんだな。


 ため息とともに、たとえようのないむなしさが、体中から込み上げてくる。




 もうふたを開けることのないケースを、引き出しの奥にそっとしまった。

 


お読み下さりありがとうございました。


次話「元気を出して、明日も頑張る」もよろしくお願いします!

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