言えなかった言葉(3)
もうこれで彼女とは終わりなのか。
本当に終わってしまうのか?
諦めの悪い想いが溢れるばかりだ。
なにがいけなかったのか、どこで間違えたのか。
事故に遭ってからのことを頭の中で繰り返す。
無駄だと解っていても、そうせずにはいられない。
だけどいくら考えても答えなどでるはずもなく。
途方に暮れて、ふうと大きなため息を漏らす。
そのまま視線をテーブルに移すと、その上に置かれたままの四角いビロード地のケースが目に入った。
しばらくそれを見つめていたが、もうどうすることもできない。
ビロード地の四角いケースを手に取り、そっと蓋を開けてみる。
……エンゲージリング。
これを渡すと決めたとき、僕はどんな気持ちだったんだろう。そして、何と言って渡すつもりだったんだろう。
……今の僕になら解る。きっと僕が言ったであろう言葉。
とても伝えたい言葉。今となってはもう言えない言葉。
あの日、これを彼女に渡すために、待ち合わせ場所に向かっていたのか。
あの日、この指輪を渡すために、彼女を想いながら向かっていたのか。
あのクリスマス・イヴの日に……。
僕の、いや、僕と彼女の人生が、違う方向に動き始めた。
今の僕にあるのは、ただ虚しさだけだ。
どこで間違ったんだろう。一体どこが間違っていたんだろう。
考えても考えても答えは見つからない。
考えれば考えるほどに切なくもどかしい。
それに今考えてみても、もう過ぎ去った時間は戻りはしない。
そう想うとなにが正解だったかなんて解らなくなる。
事故さえなければ――――でも、子供を助けたことは後悔していない。もし同じことが目の前で起こったら、また同じことをするだろう。たとえ今日の日が来ると知っていたとしても。
きっと僕は記憶を失う前から、彼女のことをすごく大切に想っていたんだろうな。
だから事故の時、とっさに僕にとっての一番大切なものを、大切な記憶を守ろうとして、頭の奥にしまい込んでしまったのかもしれない。
大事に大事にしまい込みすぎて、なかなか探せないじゃないか。
今更ながら、自分の情けなさに呆れかえる。
人生って、思うようにいかないもんだな。
ため息とともに、たとえようのない空しさが、体中から込み上げてくる。
もう蓋を開けることのないケースを、引き出しの奥にそっと終った。
お読み下さりありがとうございました。
次話「元気を出して、明日も頑張る」もよろしくお願いします!