言えなかった言葉(2)
クリスマス・イヴの未読メールを開けてみた。
そこには彼女の想いが詰まっていた。
僕は、スマホの記録から彼女を呼び出し、電話をかけることにした。
僕は、スマホの記録から彼女を呼び出し、電話をかけることにした。
意を決して呼び出し音を聞く。
しばらく応答がない。
彼女は電話に気づいていないのか。
それともオレからだと知って躊躇しているのか。
もう諦めて電話を切ろうとしたときに、呼び出し音は途切れた。
「もしもし。……僕」
『うん』
彼女の抑えた声が聞こえる。
「今日は、ごめん」
『うん』
彼女の抑えた声が、四角い箱の向こうから聞こえる。
「もう一度、会ってちゃんと話がしたいんだ」
『……』
それは叶わぬ望みなのか。
「ヤツの言うことなんか、気にするなよ。大切なのは、ふたりの気持ちだ」
『……』
僕の気持ちを伝えたい。
彼女の気持ちを知りたい。
「ねえ、何とか言ってよ。黙ってちゃ解らないよ」
『……あの人が言ってた通りよ』
「え?」
『記憶が戻らない限り、あなたにとっては私たちは付き合っていないのも同じなのよ。それに気がついたの』
「そんなことないよ! 僕だって思い出したいよ。キミのこと思い出したいに決まってるじゃないか。でも、いつ戻るか解らない記憶に嘆くより、また、新しく始めればいいじゃないか」
そうだよ。
今の僕がキミに恋をしているんだから。
『もう解らない。解らなくなった……これからどうしたらいいのか。
毎日不安な気持ちであの病院に通ってた。
……今日は、今日なら、今日こそって。あなたが思い出してくれることを願いながら。
いつも笑ってたけど、本当は苦しかった。でもあなたの笑顔と、優しい言葉に救われていた。
一番苦しんでいたのは、あなたなのにね。
それを想いやってあげられる余裕もなかった。
そんなときに、あんなことを言われて……私の心をつなぎ止めていた、何かが壊れたの』
ごめん。
ごめん。
彼女の話を聞きながら、心の中で何度も呟いた。
やっぱり辛い想いをさせていたんだと思うと、もうこれ以上は……。
もうこれ以上は黙っていられなかった。
今こそ彼女に伝えなければ。
「キミに言いたいことがあるんだ! 僕は……」
『心の……整理をつけたいの』
僕の言葉は彼女の強い意思に遮られる。
それでも僕はどうしても言いたかった言葉を続ける。
「僕は、今の僕がキミ……」
『ごめんね。今日はもう疲れた。しばらくそっとしておいて。いろいろありがと。じゃあね』
ツーツーツーツー
「あ……」
僕の言葉にかぶせるように放たれた彼女の言葉は、キッパリと、しかしどこか切なげで。
彼女の声は震えていた。胸が苦しい。
僕の言いたいこと、言えなかった言葉。
「今の僕が……キミに恋をしたんだ」
画面の暗くなったスマホを抱きしめ、呟いた。
届かない本当の想い。
もう彼女に届くはずもない。
記憶が戻らない以上、今の僕が何を言っても余計に彼女を苦しめてしまう、ということか。
もうなにも言うこともできないのか。
もうこれ以上、僕にできることはないのだろうか。
諦めの悪い想いが溢れるばかりだ。
お読み下さりありがとうございました。
次話「言えなかった言葉(3)」もよろしくお願いします!