表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第6章 言えなかった言葉
44/110

言えなかった言葉(2)

クリスマス・イヴの未読メールを開けてみた。

そこには彼女の想いが詰まっていた。

 

僕は、スマホの記録から彼女を呼び出し、電話をかけることにした。


 僕は、スマホの記録から彼女を呼び出し、電話をかけることにした。



 意を決して呼び出し音を聞く。


 しばらく応答がない。


 彼女は電話に気づいていないのか。

 それともオレからだと知って躊躇ちゅうちょしているのか。


 もう諦めて電話を切ろうとしたときに、呼び出し音は途切れた。


「もしもし。……僕」


『うん』


 彼女の抑えた声が聞こえる。


「今日は、ごめん」


『うん』


 彼女の抑えた声が、四角い箱の向こうから聞こえる。


「もう一度、会ってちゃんと話がしたいんだ」


『……』


 それは叶わぬ望みなのか。


ヤツ・・の言うことなんか、気にするなよ。大切なのは、ふたりの気持ちだ」


『……』


 僕の気持ちを伝えたい。

 彼女の気持ちを知りたい。


「ねえ、何とか言ってよ。黙ってちゃ解らないよ」


『……あの人が言ってた通りよ』


「え?」


『記憶が戻らない限り、あなたにとっては私たちは付き合っていないのも同じなのよ。それに気がついたの』


「そんなことないよ! 僕だって思い出したいよ。キミのこと思い出したいに決まってるじゃないか。でも、いつ戻るか解らない記憶に嘆くより、また、新しく始めればいいじゃないか」


 そうだよ。

 今の僕がキミに恋をしているんだから。


『もう解らない。解らなくなった……これからどうしたらいいのか。

 毎日不安な気持ちであの病院に通ってた。

 ……今日は、今日なら、今日こそって。あなたが思い出してくれることを願いながら。

 いつも笑ってたけど、本当は苦しかった。でもあなたの笑顔と、優しい言葉に救われていた。

 一番苦しんでいたのは、あなたなのにね。

 それを想いやってあげられる余裕もなかった。

 そんなときに、あんなことを言われて……私の心をつなぎ止めていた、何かが壊れたの』


 ごめん。


 ごめん。


 彼女の話を聞きながら、心の中で何度も呟いた。

 やっぱり辛い想いをさせていたんだと思うと、もうこれ以上は……。

 もうこれ以上は黙っていられなかった。


 今こそ彼女に伝えなければ。


「キミに言いたいことがあるんだ! 僕は……」


『心の……整理をつけたいの』


 僕の言葉は彼女の強い意思にさえぎられる。

 それでも僕はどうしても言いたかった言葉を続ける。


「僕は、今の僕がキミ……」


『ごめんね。今日はもう疲れた。しばらくそっとしておいて。いろいろありがと。じゃあね』


  ツーツーツーツー


「あ……」


 僕の言葉にかぶせるように放たれた彼女の言葉は、キッパリと、しかしどこか切なげで。

 彼女の声は震えていた。胸が苦しい。



 僕の言いたいこと、言えなかった言葉。


「今の僕が……キミに恋をしたんだ」


 画面の暗くなったスマホを抱きしめ、呟いた。


 届かない本当の想い。

 もう彼女に届くはずもない。


 記憶が戻らない以上、今の僕が何を言っても余計に彼女を苦しめてしまう、ということか。


 もうなにも言うこともできないのか。

 もうこれ以上、僕にできることはないのだろうか。

 あきらめの悪い想いが溢れるばかりだ。



お読み下さりありがとうございました。


次話「言えなかった言葉(3)」もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 言えなかった言葉(2)まで読みました。 ヤツのクセが凄いですね! ( ; ロ)゜ ゜ つきまとってくるうっとうしい感じがとても丁寧に描写されていて良かったです。 ひとの男に手を出したいタ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ