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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第5章 オレの女神
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退院の日(6) 

 こんな日がくるなんて……。

 僕は去りゆく彼女の後ろ姿を、茫然ぼうぜんと見送るほかなかった。


 さっきの出来事を思い出してみる。なにがどこでどうなったのか。

 あんなにも彼女を傷つけたまま帰してしまうなんて。

 どうして守ることができなかったのだろう。

 彼女のことを。僕たちの未来を。僕の言いたかった言葉を。もう言えない言葉を。


 どうして守ることができなかったのだろう。

 彼女のこころを。




 気づかぬうちに、僕は泣いていた。人目も気にせずに、ただただ泣いている。


 いつからか側に立っていた親友に、言わずにはいられなかった。


「彼女に……今の僕が彼女に恋をしたんだ」


「知ってたよ」


 そう言って、僕の肩にポンと手を置いた親友。

 やっぱり全てお見通しだったのか。

 それでも今までそのことに触れずにいてくれた、親友の優しさを思い知る。



 自分の想いが相手に届かないのは、こんなにも切ないんだ。今更ながらも、そう思わずにはいられない。彼女はそれをずっと笑顔の下に隠して、気丈に振る舞っていたんだ。

 そう思うととても切なくやるせない。

 時折見せた、寂しそうな目と溜め息が、彼女の精一杯の息抜きだったんだろう。


〈女神のような白い手〉を、掴み損なったような気持ちになった。


 女神のような白い手……。


「ううっ、頭が……」


 頭が割れるように痛くなり、両手で抱え込んだ。


「おい、大丈夫か? 少し休め」


 そう言われ親友に支えられてベッドに腰かけ、少し休むことにした。


「わあ、大丈夫?」


 脳天気なヤツ・・が聞いてくる。

 

「まったく、誰のせいでこうなったと思ってるのよ」


 彼女ちゃんがあきれ果てたように呟いた。


「本当のこと言っただけだもん。私悪くないも~ん」


 悪びれずにそう言ってのけるヤツ・・

 どういうつもりなのか、本意が知りたくもあるが。


「お前、これで満足か?」


 親友は振り返りヤツ・・に問う。


「え~、なにがぁ?」 


「人を傷つけて、楽しかったか?」 


「だって本当のことじゃん」


 そう言って口を尖らせているヤツ・・にとうとう親友が声を荒らげた。


「もう帰れ!」


 そう言われて、ヤツ・・は渋々帰って行く。


 やっと帰ってくれた。

 なんとも言えない脱力感を覚える。



 そこへ看護師さんが、もう退院の時間だと知らせに来てくれた。

 後味の悪い最後になったが、入院生活もこれで終わりかと思うと、少し寂しい気もする。

 もう少し入院していたら、もう少しだけでも彼女と過ごせたのかな、なんて思ってみたり。

 どうしようもないことをあれこれ考えてみたり。



 その後僕は親友たちに送られて、そのまま家に帰った。



お読み下さりありがとうございました。


次話「言えなかった言葉(1)」もよろしくお願いします!

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