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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第5章 オレの女神
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退院の日(4)

 気を取り直して病室のドアを開ける。

 親友と彼女ちゃんがヤツ・・と言い争っているその光景に、一瞬自分の目を疑った。


 彼女は横でオロオロしている。

 状況が掴めないオレはなだめるように言った。


「なに大きな声を出してるんだ。外まで聞こえてるよ。ここは病院なんだから」


 どういういきさつでこうなったのか、話を聞いてみることにした。

 そのうちに熱も冷めて冷静になってくれるかとも思ったが、そんなに甘いものじゃなかった。


 話がヤツ・・のことになると、また彼女ちゃんがヒートアップする。

 それを聞いていたヤツ・・は一気にまくしたてた。


「フン、バカにバカって言って何が悪いのよ! 大体、未練がましいのよ。他の入院患者さんから聞いたわよ。彼、あなたのこと覚えてないんですってねぇ。自分のこと覚えてもいない相手のところに、厚かましく毎日毎日押しかけて、しおらしいふりしちゃって、彼に取り入っちゃって、見え見えなのよ」


「えっ、何言ってんだ! 彼女はそんな人じゃないよ。彼女のことを何もしらないくせに、勝手なこというなよ」


 今度は僕の方がカッとなった。


「大体の想像はつくわよ。それに今のあなただって彼女のことは知らないんじゃないの?」


 痛いところをつかれて一瞬言葉に詰まった。

 が、それとこれとは別の話だ。


「相手の気持ちも考えず、憶測で喋るのはやめろ。それにお前、今日は来るなって言っただろ。迷惑なんだ、もう帰れ!」


 腹が立って、ついつい声を荒らげてしまう。


「えー。来るなって言うのは、私に気を使ってるのかと思って。その女こそ遠慮もせずにのこのこやって来て、ホントや~ね~」


「彼女はコイツの恋人なんだから、来て当り前だろうが! 厚かましいのはどっちだよ」


「でも、肝心の彼が覚えてないんじゃあね~」


「コイツ、言わせておけば!」


 今にも殴りかかりそうな親友の前に立ち、ヤツ・・の前に一歩踏み出し言葉を発しようとした時だった。


「もういいよ、ケンカしないで。ここは病院なんだから、大きな声出したら他の人に迷惑だから」


 彼女の声が僕の動きを制止する。


「お前、こんなヤツに言わせておいていいのか?」


 親友は気が収まらない様子で彼女に聞く。


「私は……私のことで、誰にも言い争ってほしくないだけ」


 彼女の優しさが言葉から溢れている。

 なのにヤツ・・はまた余計なことを口走った。


「またいい子ちゃんぶって、ちゃんちゃらおかしいのよ。恋人恋人って偉そうに言うけど、本当にそうなの? 彼の気持ちも確かめないで、一方的に言ってるだけなんじゃないの? 彼の記憶が戻らない以上、確かめようがないじゃない。みんなで結託して彼を騙してるだけかも……」


 パチン!


 ヤツ・・の言葉を遮るように、あの彼女ちゃんが平手打ちをした。


「きゃあ、痛ーい、何すんのよ!」


「口で言っても解んない人には、こうするのよ!」


「フン、恋人だって言っても、彼の記憶が無いんだったら、元々、付き合ってないのと同じじゃない」


「コイツ! 言わせておけば!」


 親友が一歩前に出て、威嚇する。


「もうやめて! この人の言う通りよ。私1人が恋人だって言ってても、彼には何の記憶も無いんだから、私の独りよがりなんだわ」


 彼女にこんな言葉を言わせてしまうなんて。


「そんなことないよ。僕はキミが毎日来てくれて、嬉しかったよ」


「そうだよ、この女が何て言おうと、お前らはずっと一緒に過ごしてきた。そばで見てきた俺たちが証人だ」


「ありがとう。でももういいの。今日はもう帰るね。私は大丈夫だから。

 それと……退院おめでとう」


 切なさをにじませながらも、精一杯の笑顔を作る彼女。


「お前は何も悪くねぇんだから、帰る必要はないぜ」


 親友の言葉に続いて僕も言葉をかける。


「そうだよ。一緒に帰……あ、ちょっと待って!」


 だめだよ、行かないで。

  


お読み下さりありがとうございました。


次話「退院の日(5)」もよろしくお願いします!

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