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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第1章 オレはずっと
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可愛い妹

 夕食時。妹は、夕方遊びに来ていた友人と3人で「アイドルのコンサートに行きたい!」と両親に懇願している。どうやら、もの凄い倍率のチケットがやっと手に入ったらしい。この機会を逃すと、もう一生行くチャンスがないとか、大袈裟なことを言いながら必死で頼んでいる。


 父は、『女の子だけで夜のコンサートに行くなど、以ての外だ』と相手にしない。

 それでも妹は必死で食い下がる。


「お願い」「だめだ」の繰り返し。


 見かねた僕は、『行かせてあげれば?』とつい余計なことを言ってしまう。


 すかさず母が、とんでもないことを言い放った。


「じゃあ、あなたも一緒に行ってあげなさい。チケットは4枚あるんでしょ?」


「うん、4枚あるから使わないと損した気分になる」


 妹はぷうとほっぺをふくらませてこちらを見る。

 な、なにを期待してるんだ?


 そこへ母の一撃が……。


「お兄ちゃんが一緒だと、安心よねぇ」


 え、なんでそうなるんだよ。


 ああ、いくら可愛い妹の為だとはいえ、女性アイドルのコンサートならまだしも、男性アイドルのコンサートとは。 

 想像してみたけど……ムリだ。


「ムリムリ、ぜーったいムリ!」


 僕は首と右手を大きく左右に振り、必死で拒否した。


「お兄ちゃん、お願い!」


 …………。


 はぁー。

 そんな可愛い、子犬のような上目づかいで頼まれると、悲しき兄のさがかな、心とは裏腹に、つい言ってしまうのだ。


「仕方ないなぁ、今回だけだぞ」


「うわぁ、本当に? お父さん、お兄ちゃんと一緒ならいいでしょ?」


 いや、厳格な父のこと。『ダメだ』という言葉が返ってくるのは明白だ。

 それを受けては、母も上手く妹をなだめてくれるだろう。


「……うむ。帰りが遅くならないように、気をつけてな」


 父は渋々許可をした。


 え、許しちゃうの? そんなに簡単に?

 さっきまで応援していた僕だけど、自分に矛先が向けば話は別だ。

 父よ! そんなに簡単に許してもいいのか!

 と言いたいところだが。


「はい、気をつけます! お兄ちゃんありがとう! よろしくお願いします」


 間髪入れずにそう言うと、妹はペコッと頭を下げた。

 夕方の大騒ぎの正体はこれだったのかと納得。


 可愛い妹の為にどうするか。

 そんな男性アイドルのコンサートに、キャッキャと浮かれる妹とその友人たちのお供として、うつむき加減で顔を赤らめ恥ずかしさと戦いながら行くべきか。


 いやいや、男子高校生はそんな絵面えづらに耐えられるはずもない。

 妹には悪いが、ここはきっぱりと。

 ……きっぱりと。



「おう、任せとけ」


 ううっ……。本当はあまり乗り気じゃないけど、ついうっかり口に任せた自分の言葉が招いたことだ。ここは潔く観念しよう。


「お前も、くれぐれも頼んだぞ」


「うん、大丈夫だよ」


 ああ、やはり妹には弱い僕がいた。


 その後の妹の喜びようといえば、背中に羽根が生えて、天まで飛んでいくのではないかと思うほどだった。 

 ――母と妹が目配せをしているように見えたのは、気のせいだろうか。



 実際、コンサート当日は想像通り、男性アイドルのコンサートに、キャッキャと浮かれる妹とその友人たちのお供として、うつむき加減で顔を赤らめ、恥ずかしさと戦いながら過ごす男子高校生……ということになったわけだが。


 だが。

 気がつけばちょっと楽しんでいる自分もいたりして……。





 そんなこんなで、平穏な僕の1日は最後にドッと疲れたが、そろそろ終わろうとしている。

 ベッドに入り、眠りについた。






 眠りに……ついた。


 『ん?』


 しばらくすると、遠くで誰かの声がする。


「……」 


「…………」


 鈴を転がしたような澄んだ声が、僕の名前を呼んでいる。 

 優しい、そしてどこか懐かしいその声に、夢の中で僕は目を覚ました。



 そっと目を開けると………。


 『此処ここは……』



 ――全てが真っ白な世界――



 白以外は何も無い、何も無い空虚の中にいた。僕は起き上がって辺りを見渡してみる。


 全てが真っ白な世界。

 前後・左右・上下全てが眩しいほどに純白で、足元には自分の影さえも無い。

 ただとてつもなく広い〈白〉の中で僕は、呆然と立ちすくんでいた。



 『此処ここは……何処どこだ?』




 目覚まし時計の凄まじい音で飛び起きた僕は、多少の違和感を覚えながらも、いつものように身支度を整え、平穏な1日を過ごすべく、今日も学校へと向かう。



お読み下さりありがとうございました。


次話「本人には絶対に言わない(1)」もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 可愛い妹 まで拝読しました。 不思議な感じの始まりが魅力的ですね。 どのような展開になっていくのかが最初からは掴めないところがとても良かったです。 展開を楽しみにしつつ読むという楽しみが…
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