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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第5章 オレの女神
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退院の日(3)

 明日はいよいよ退院の日だ。

 こんな何もない病室でも、3週間も入院していれば多少の愛着は湧く。

 たかが3週間。されど3週間。

 

 その間にはクリスマスに正月と、年中行事の中でも大きなイベントがあった。

 それぞれに僕にはいい想い出となっている。

 それに毎日顔を見せてくれる彼女との、想い出のいっぱい詰まったこの部屋を離れることに、名残惜しささえ感じる。


 そんなことを考えながら部屋を見渡してみた。


 彼女との想い出はこの病院の中、この無機質な白に囲まれた部屋の中だけだ。以前のことは覚えていない。

 それでも彼女と過ごしたここでの日々は、僕には輝いている。


 彼女はいつも冷静で、しっかり者だ。そのくせ少々ドジなところもあり、何故か放っておけない。 そのギャップが何とも可愛い。

 そして何より、あの澄んだ瞳の、くったくのない笑顔で見つめられると……。


 よく笑い、ころころ変わる表情。思いやりに溢れる優しいこころ。


 僕は彼女に恋をしている。


 彼女との記憶がない僕だけれど、日ごとに彼女への想いは募るばかりだ。


 でも、まだ何も想い出せていない以上、とてもじゃないけど彼女には気持ちを打ち明けられるはずもない。


 ちゃんと想い出したら、彼女とのことを全て想い出したなら。


 その時は、僕の気持ちを伝えよう。


 もう彼女が窓辺で夕陽を眺め、小さな溜め息を漏らすことのないように。

 寂しそうな瞳から、ほおを伝う一条ひとすじの光が夕陽に照らされることがないように。


 これからは、僕が彼女を支えていきたい。





* * *


 退院当日、身支度を整えて主治医や看護師、その他入院中に世話になった人達に挨拶をして回る。みんな本当によくしてくれて、感謝の気持ちでいっぱいだ。

 最後に会計を済ませて病室の前まで戻る。


 退院まであと1時間。

 まだ誰も来ていないと思っていた部屋の中から、話し声が聞こえる。

『みんな、もう来てくれたんだ』と、嬉しい気持ちでドアに手をかけようとした時、中から聞こえた親友の声に僕の動きは止まった。


「何言ってんだ、オイ!」


 え?

 こんな病室で声を荒らげてどうしたというのだろう。


「だからー、バカみたいって言ってんのぉ」


 え、ヤツ・・か? やっぱり来たんだ。


「誰がバカなのよ! バカなのはアンタの方でしょ!」


 彼女ちゃんのあんなに怒った声は、聞いたことがない。


 一体何があったというんだ?


 不安な気持ちがよぎる中、僕は病室のドアを開けた。



お読み下さりありがとうございました。


次話「退院の日(4)」もよろしくお願いします。

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