表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第5章 オレの女神
38/110

退院の日(2)  

 年も明け、精密検査の結果も異常はなかったので、来週退院することになった。担当医の話だと、記憶もそのうち戻るだろう。

 焦らず、気長に、ということだ。


 みんなは『今度こそ』と、退院祝いの話で盛り上がっている。


「なんだかんだ言って、みんな、僕の退院祝いにかこつけて、ただ騒ぎたいだけなんじゃないの?」


「それもある。でも最近はそれぞれ仕事も忙しかったし、何か理由がないとなかなか4人で集まる機会がなかったからな。お前、いい時に入院してくれたよ」


 親友の言葉にみんなに笑みがこぼれる。楽しいひととき。


「とんだ言いぐさだな。子供ちゃんはいいの?」


「じいちゃん、ばあちゃんが、喜んで見てくれてるよ」


「そうか、なら安心だな」


 やっぱ孫には甘いんだろうな。

 

 そこで彼女が口を開いた。


「そろそろ私帰るね。あまり長居して、疲れさせてもいけないから」


 いつもそうやって僕のことを気づかってくれる。

 そんな彼女のことを僕は愛おしいと思う。


「じゃ、私たちも帰ろっか」


「そうだな。退院の日は、3人揃って迎えに来てやるからな。その足で、退院パーティーだ! それまで、おとなしくしてろよ」


 相変わらずの親友の言葉に、「はいはい、言いつけ守ります」と敬礼のポーズをする。


 ワイワイと楽しい時間が終わりを告げ、3人は病室を後にした。


 ひとり残された病室は、案外広く感じる。

 みんなが帰って少し経ち、ふうとひと息もらして、また読書でもはじめようかと思った時だった。


 ドアをノックする音がした。

 妙な不安を覚えながらも返事をする。


 ……やっぱり。


 またいつものようにヤツ・・がやって来た。


「退院が決まったんだって? おめでとう」


 どこで聞きつけてきたのか、ヤツ・・はなぜかいつも僕の情報に詳しい。


「ありがとう」


「当日は、私が迎えに来るね」


 いやいやいや。

 それは遠慮したい。嫌な予感しかしない。


「いや、友達が来てくれるからいいよ。会社もあるし」


 ってか、来てほしくない。


「お休みするから、平気平気」


 いやー、遠回しに断ったつもりだったんだが、ヤツ・・の押しの強さには、誰も敵わない。

 彼女とは、正反対のタイプだ。


 敢えてハッキリと言おう。


「お前は来てくれなくていいよ」


「ええー、そう言われると、意地でも来たくなっちゃった。エヘッ」


 どういう性格してるんだよ。断ってるのに。


「絶対に来るなよ!」


 あー、何かイヤな予感がする。退院の日が楽しみなような、少し不安なような、複雑な気持ちだ。



お読み下さりありがとうございました。


次話「退院の日(3)」もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ