退院の日(2)
年も明け、精密検査の結果も異常はなかったので、来週退院することになった。担当医の話だと、記憶もそのうち戻るだろう。
焦らず、気長に、ということだ。
みんなは『今度こそ』と、退院祝いの話で盛り上がっている。
「なんだかんだ言って、みんな、僕の退院祝いにかこつけて、ただ騒ぎたいだけなんじゃないの?」
「それもある。でも最近はそれぞれ仕事も忙しかったし、何か理由がないとなかなか4人で集まる機会がなかったからな。お前、いい時に入院してくれたよ」
親友の言葉にみんなに笑みが零れる。楽しいひととき。
「とんだ言いぐさだな。子供ちゃんはいいの?」
「じいちゃん、ばあちゃんが、喜んで見てくれてるよ」
「そうか、なら安心だな」
やっぱ孫には甘いんだろうな。
そこで彼女が口を開いた。
「そろそろ私帰るね。あまり長居して、疲れさせてもいけないから」
いつもそうやって僕のことを気づかってくれる。
そんな彼女のことを僕は愛おしいと思う。
「じゃ、私たちも帰ろっか」
「そうだな。退院の日は、3人揃って迎えに来てやるからな。その足で、退院パーティーだ! それまで、おとなしくしてろよ」
相変わらずの親友の言葉に、「はいはい、言いつけ守ります」と敬礼のポーズをする。
ワイワイと楽しい時間が終わりを告げ、3人は病室を後にした。
ひとり残された病室は、案外広く感じる。
みんなが帰って少し経ち、ふうとひと息もらして、また読書でもはじめようかと思った時だった。
ドアをノックする音がした。
妙な不安を覚えながらも返事をする。
……やっぱり。
またいつものようにヤツがやって来た。
「退院が決まったんだって? おめでとう」
どこで聞きつけてきたのか、ヤツはなぜかいつも僕の情報に詳しい。
「ありがとう」
「当日は、私が迎えに来るね」
いやいやいや。
それは遠慮したい。嫌な予感しかしない。
「いや、友達が来てくれるからいいよ。会社もあるし」
ってか、来てほしくない。
「お休みするから、平気平気」
いやー、遠回しに断ったつもりだったんだが、ヤツの押しの強さには、誰も敵わない。
彼女とは、正反対のタイプだ。
敢えてハッキリと言おう。
「お前は来てくれなくていいよ」
「ええー、そう言われると、意地でも来たくなっちゃった。エヘッ」
どういう性格してるんだよ。断ってるのに。
「絶対に来るなよ!」
あー、何かイヤな予感がする。退院の日が楽しみなような、少し不安なような、複雑な気持ちだ。
お読み下さりありがとうございました。
次話「退院の日(3)」もよろしくお願いします!