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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第5章 オレの女神
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退院の日(1)

 クリスマスも過ぎ、今年も残すところあとわずか。

 世間では年末はいろいろと忙しいだろうし、街やデパートなんかも正月に備えた買い物客で賑わっていることだろう。が、病院の中はまるでいつもと変わらず、淡々とした毎日が過ぎてゆく。


 眩しいほどに白で覆われた空間。必要なもの以外は何も置いていない味気ない部屋。

 そんな中で過ごす空虚な時間。

 それでも毎日少しずつの変化はあって、それほど退屈せずにはすんでいるのだけど。


 朝6時に起床、検温、脈拍を測りに看護師さんがやってくる。


「おはようございます」


 今日初めて発する言葉。


 その後少し体調についてなどの会話をし、部屋を出て行く後ろ姿を見送る。

 歯磨き、洗顔をしてまたベッドに戻る。またしばらく無言の時間を過ごす。

 そして朝食。それから読書をしたりなんかして午前中の時間をつぶす。


 やっと昼食の時間になり、食後はまた退屈な時間を過ごすのだが。

 面会時間は14時からなので、少し経つと誰かが部屋のドアをノックする。

 真白い無機質な空間が、ぱあっと明るくなる瞬間だ。



 入院中は、代わる代わる色んな人が、見舞いに訪れてくれた。

 父、母、妹、親友、彼女ちゃん、仲の良い同期、いつも人騒がせなヤツ・・

 それともう1人。


 そう、もう1人。

 とっても可愛いもう1人。

 僕は彼女に恋をした。彼女との想い出は、この病院の中。昔のことは覚えていない。

 

 以前の彼女のことを、今の僕は知らない。

 以前は恋人同士だったって言うけれど、彼女との想い出は、この病院の中以外、何も無い。


 だけど、今の僕が彼女に恋をした。


 彼女と過ごす日々は僕にかけがえのない喜びを与えてくれる。

 病院という、外界とは隔絶された空間にも、優しさと温かさを運んできてくれる彼女。


 そんな彼女に、今の僕が恋をした。


 退院したらいろんな所に出かけて、彼女との新たな想い出を作っていきたい。

 そしていつか今の僕の、彼女に対する想いを告白しよう。


 ただ彼女が側にいてくれるだけで、それだけで僕は他に望むものは何も無い。

 誰かをこんなに愛おしく思えたことが、今までにもあったのだろうか。


 記憶が戻ろうが、戻るまいが、そんなことは知ったこっちゃない。

 風まかせ、全て風に委ねて。

 だって言うじゃないか、『明日は明日の風が吹く』って。


 なんとかなるさ。

 成るように成るさ。


『大切なのは、これからなんだ』

 って、僕の独りよがり……かな。



お読み下さりありがとうございました。


今話より、第5章に入りました。

次話「退院の日(2)」もよろしくお願いします!

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