表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第4章 一目惚れ
36/110

一目惚れ(3)

 入院するのは初めてで、有り余る時間をどう過ごせばいいのだろうと懸念していたが、そんな不安はすぐに吹き飛んだ。

 会社が冬休みということもあり、彼女は健気にも毎日通ってきてくれて、僕の無くした記憶を一生懸命取り戻そうとしてくれている。

 そんな彼女を見ていて、そんな彼女と過ごしていて、なにげなく過ごす時間が、いつの間にかかけがえのない時間になっていった。



 そう、僕は彼女に恋をした。



 でも、今の僕にとっては、まだ付き合いが浅いわけで。

 とてもじゃないけど、彼女には気持ちを打ち明けられるはずもない。


 だからちゃんと想い出すまで、この気持ちは胸に秘めていよう。

 そしてちゃんと想い出したら、彼女とのことを全て想い出したなら、


 その時は、僕の気持ちを伝えよう。




 でもたまに夕方、僕がベッドで目を覚ますと、彼女は病室の窓から夕陽を眺め、小さな溜め息を漏らしている。

 その瞳はとても寂しそうで、ほおを伝う一条ひとすじの光が夕陽に照らされて。

 いつもは明るく振る舞っている彼女だけど、僕の前では弱音や愚痴はいっさい口にはしないけれど、本当は辛いのだろうと察する。

 彼女の胸の内を思うと、申し訳ない気持ちで一杯になって、どうしたらいいか解らなくなる。


 そして今日も僕が目を覚ますと、彼女は南側の窓辺に立っている。

 夕陽であかく染まっている彼女の横顔は、どこか寂しげで。

 できることなら背中からそっと抱きしめて、安心させてあげたい。


 『全て想い出したよ』と、そう告げたい。


 でも今の僕にはどうすることもできない。

 この先どうしたらいいのかさえも解らない。



 あれからも想い出そうとする度に、例の頭痛に襲われる。

 その都度、彼女は心配そうに僕を見つめている。その瞳。



 痛いのは頭だけじゃない。

 同じくらいに……心が痛む。




 僕は目を閉じた。――彼女のことを想い出したい。彼女の寂しそうな顔は見たくない。


 でも、無理に想い出そうとすると、また彼女に心配をかけてしまう。

 それに想い出せないことで、余計に彼女に苦しい想いをせてしまう。



 彼女は僕の前では絶対に泣かない。いつも笑顔でいてくれる。

 僕を不安にさせまいと、一生懸命に笑顔でいてくれる。

 その笑顔が、哀しみとともに生み出される笑顔が……切ない。


 ああ、彼女の本当の、心からの笑顔が見たい。

 僕はどうすれば。



 どうすればいいのだろう。



お読み下さり、ありがとうございます。

今話で第4章が終わり、次話から第5章が始まります。

このまま、すんなりいってほしいけど……。

どうなっちゃうのでしょうね。


なにはともあれ、今後とも、よろしくお願いします!


藤乃 澄乃


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ