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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第4章 一目惚れ
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一目惚れ(2)

みんなのことは覚えてる。でもキミのことは、はじめましてとしか……。

 みんなでクリスマスパーティーで盛り上がった病室。

 楽しく会話をしていたけれど、とっても可愛いもう1人のことが気になって。

 何気なく言った僕の言葉で、場の雰囲気が一変した。


 そう、正しく凍りついたのだ。


「はぁー、マジか」


 親友は両手で頭を抱え込んだ。


「ふぅー。じゃあ、俺が教えてやるよ。

 彼女は、お前とはもう6年も付き合ってる恋人だ。高校2年の時、お前から告白して、それから大学生の時も、社会人になってからも、ずっと仲良くやってる。」


「え、僕の……恋人。本当に? もしそうだったら嬉しいけど、でも……」


 でも、僕にはそんな記憶はない。

 こんなに可愛い女性ひとが僕の恋人だって?

 なら忘れるはずなんてないじゃないか。


「昨日のクリスマス・イヴに、デートの約束をしてたことも? その待ち合わせ場所に向かう途中で、子供を助けようとして、事故に遭ったことも覚えてないの?」


「事故のことは覚えてる。何か大切なことのために出かける途中だったような気もするけど。でも、キミと2人でデートに? クリスマス・イヴ……ううっ」


 想い出そうとすると、頭が割れるように痛くなり、その場にうずくまった。


 頭の中にもやがかかったような感じで、すぐそこに何かがあるのに辿り着けない。

 そんなもやもやとともに襲いかかる、とてつもない痛み。


「おい、大丈夫か?」


「私、先生を呼んでくる」


 彼女ちゃんは、慌てて部屋を飛び出して行った。




* * *


 主治医の話では、事故による偶発性のもので、記憶の一部が欠落しているとのこと。

 おそらく一時的なものなので心配はないが、念のため、年明けに精密検査をするとのことだ。


 退院が少し延びるらしい。



 でも、おかしなこともあるもんだ。

 ほかのことは覚えているというのに、彼女の記憶だけがないなんて。

 もし本当に彼女が僕の恋人なら、絶対に忘れたくない記憶。

 一番大切な想いのはずなのに、どうしてそれだけが……。



 会社が冬休みということもあり、それから毎日、彼女は病院に足を運んできてくれた。

 文句1つ言わず、ちょっとはにかみながらも、嬉しそうに2人の想い出の品や写真を見せてくれたり。

 一生懸命、僕たちの『今まで』を話して聞かせてくれる。

 そんな健気な彼女が、いつも明るく優しい彼女が、僕の中で次第に存在感を増していった。


 毎日特別になにをするということはないけど、彼女とたわいない話しをしたり冗談を言って笑い合ったり。なにげなく過ごす時間は、いつの間にかかけがえのない時間になっていった。



 そう、僕は彼女に恋をした。



お読み下さり、ありがとうございます。


次話「一目惚れ(3)」もよろしくお願いします!


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