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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第4章 一目惚れ
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気がつけば(3)

 何か大事なことを、大切な何かを忘れている気がする。

 病室の白い天井を見つめ、よくよく考えてみる。

 なんだろう。それさえも解らないけど、とても大切な何か。


 何も思い出せずに、今度は目を閉じてゆっくりと考えてみた。


 約束……。

 そうだ、約束があったんだ。大切な約束が!

 とてもとても大切なことのために待ち合わせをしていたんだ。


 ――でも一体誰と?



「ううっ」


 考えると、頭がすごく痛くなった。

 僕は頭を抱え込むように両手で押さえる。



 と、そこへ聞き覚えのある声色が飛び込んできた。


「わぁ、どうしたのぉ、大丈夫ぅ?」


 ヤツ・・だ。


 不意な訪問に驚くも、それもいつものこと。

 せっかくというか、なんというか、会社に行けないおかげ・・・で、しばらくヤツ・・から解放されるはずだったのにな。


「ああ、大丈夫だ。見舞いに来てくれたの? すぐ退院するからよかったのに」


 入院中くらいは平穏でありたかったのに、また平穏じゃすまなくなりそうな憂鬱がやって来た。

 同期の女子だが、やたらと僕に絡んでくる。

 もう、好き好き光線が強烈すぎて、少し……いや、大分引いてしまう。


 嫌いじゃないけど、好きでもない。

 どちらかといえば、苦手なタイプだ。


 見た目はふんわりしていて、巻き髪もよく似合っている、俗に言う『男好きのする』タイプだ。

 猫なで声で甘えてきたりして、その辺の男子ならイチコロだろう。

 けど、犬派の僕はヤツ・・のその態度が苦手だ。


「だってぇ、今日会社に行ったら、事故に遭ってお休みだっていうじゃない。心配で、ちょっと抜け出してきちゃったぁ。でも元気そうで安心した」


 会社を抜け出してきたって、悪びれもせずぬけぬけと言うところも苦手だけど、折角来てくれたことだし、ここはひとつ素直に。


「それはどうもありがとう」


「今日は素直ね」


「折角見舞いに来てくれてるのに、そう邪険にできないしね」


「ふふふ、うれしい」


「会社抜け出して来たんだろ。早く帰らないと、また叱られるぞ」


「うん。元気な顔も見られたし、そろそろ帰るね。あ、これお見舞い。何がいいか解らなかったから、クッキーにしたの」


「ありがとう」


「じゃ、また来るねぇ。バイバーイ」


 ヤツ・・もなかなかカワイイとこあるじゃん。あんまりキツく当たると、可哀相かな。

 入院と聞いて心細いせいもあってか、不覚にもそんな風に思ってしまう。


「あ、そうそう、」


 帰りかけたヤツ・・が、ドアのところから顔をのぞかせた。


「何だ、忘れ物か?」


「パジャマ姿もカッコイイ。大好きだよ!」


「うるさい、早く帰れ!」


 前言撤回。



お読み下さりありがとうございました。


次話「一目惚れ(1)」もよろしくお願いします!

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