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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第4章 一目惚れ
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気がつけば(2)

 とても大切なことのために、僕は待ち合わせをしていた。

 その待ち合わせ場所に向かう途中、公園からボールを追いかけて、車の前に飛び出した男の子を助けようと……。身体が自然に動いていた。


 鈍い音とともに僕は体が少し浮いた気がして、スローモーションの世界の中、いろんな思い出が走馬燈のように頭の中を駆け巡り、地面に叩きつけられたんだ。その時、一体なにを思い出していたのだろう。


 その後全身に激痛が走り、身動きがとれなくなった。


 ああ、それで僕はここにいるんだなということを理解した。




 僕の主治医という人がやってきて、脈拍や血圧を計り、ペンライトで照らして瞳孔を調べたりしている。


「気がつかれましたか?」


「はい」


「ここがどこだか解りますか?」


「病院……ですね」


 それから名前や生年月日、家族構成などの質問に、聞かれるままに答える。

 その後、主治医から僕の怪我に対する説明を受けた。


「事故に遭ったとき頭を打たれ、丸1日意識が戻らなかったので心配していましたが、今お話ししていてもハキハキされていて、意識もしっかりされているようですし、何の問題もなさそうです。

 検査の結果も、異常は認められませんでした。車のスピードもあまり出ていなかったようで、怪我の方も、全身の打撲のみで、心配ありません。

 1週間程、まあ正月明けには退院できますよ」


「あ、ありがとうございます」


 みんなは気が早く、もう退院祝いの話で盛り上がっている。


「ねぇ、僕が丸1日眠ってたっていうことは、今日はクリスマスだよね。みんなもう帰っていいよ。予定があるでしょ?」


「どうせ今日は、俺たち集まってパーティーしようって言ってたからな。あ、お前、別に何食べてもいいんだったら、ここでパーティーしようぜ!」


「ち、ちょっと、ここは病院だよ」


「いいじゃんか。ここは個室だし、ケーキ食って話するぐらいどうってことないよ。

 じゃ、俺らはちょっくら買い出しに行ってくるわ」


 そう言って、親友、彼女ちゃん、それともう1人……とっても可愛いもう1人、の3人は病室を出て行った。


 その後ろ姿を見送って、ふと疑問に思う。

 親友、彼女ちゃん、それともう1人……。

 ん? 誰だ?


「じゃ、心配なさそうだし、私たちも一旦帰るわね」


「あまりはしゃぎすぎるなよ」


「お兄ちゃん、また来るね。メリークリスマス!」


 そう言うと、父母と妹は帰っていった。


 にぎやかだった病室にひとり残されると、まだ慣れないせいか少し寂しく感じる。


「ふぅー。入院か」


 そう呟いてベッドに横になり、真っ白い天井を見上げた。


 何か大事なことを、大切な何かを忘れている気がする。

 なんだろう。それさえも解らないけど、とても大切な何か。


 まぁ、頭を打ったんだし、しばらくはスッキリしないかもな。


 僕は目を閉じて考えてみる。

 昨日の朝、なぜ僕があの公園の前を歩いていたのか。

 少し考えて思い出した。



 約束……。

 そうだ、約束があったんだ。大切な約束が!

 とてもとても大切なことのために待ち合わせをしていたんだ。


 ――でも一体誰と?



お読み下さりありがとうございました。


次話「気がつけば(3)」もよろしくお願いします。


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