気がつけば(2)
とても大切なことのために、僕は待ち合わせをしていた。
その待ち合わせ場所に向かう途中、公園からボールを追いかけて、車の前に飛び出した男の子を助けようと……。身体が自然に動いていた。
鈍い音とともに僕は体が少し浮いた気がして、スローモーションの世界の中、いろんな思い出が走馬燈のように頭の中を駆け巡り、地面に叩きつけられたんだ。その時、一体なにを思い出していたのだろう。
その後全身に激痛が走り、身動きがとれなくなった。
ああ、それで僕はここにいるんだなということを理解した。
僕の主治医という人がやってきて、脈拍や血圧を計り、ペンライトで照らして瞳孔を調べたりしている。
「気がつかれましたか?」
「はい」
「ここがどこだか解りますか?」
「病院……ですね」
それから名前や生年月日、家族構成などの質問に、聞かれるままに答える。
その後、主治医から僕の怪我に対する説明を受けた。
「事故に遭ったとき頭を打たれ、丸1日意識が戻らなかったので心配していましたが、今お話ししていてもハキハキされていて、意識もしっかりされているようですし、何の問題もなさそうです。
検査の結果も、異常は認められませんでした。車のスピードもあまり出ていなかったようで、怪我の方も、全身の打撲のみで、心配ありません。
1週間程、まあ正月明けには退院できますよ」
「あ、ありがとうございます」
みんなは気が早く、もう退院祝いの話で盛り上がっている。
「ねぇ、僕が丸1日眠ってたっていうことは、今日はクリスマスだよね。みんなもう帰っていいよ。予定があるでしょ?」
「どうせ今日は、俺たち集まってパーティーしようって言ってたからな。あ、お前、別に何食べてもいいんだったら、ここでパーティーしようぜ!」
「ち、ちょっと、ここは病院だよ」
「いいじゃんか。ここは個室だし、ケーキ食って話するぐらいどうってことないよ。
じゃ、俺らはちょっくら買い出しに行ってくるわ」
そう言って、親友、彼女ちゃん、それともう1人……とっても可愛いもう1人、の3人は病室を出て行った。
その後ろ姿を見送って、ふと疑問に思う。
親友、彼女ちゃん、それともう1人……。
ん? 誰だ?
「じゃ、心配なさそうだし、私たちも一旦帰るわね」
「あまりはしゃぎすぎるなよ」
「お兄ちゃん、また来るね。メリークリスマス!」
そう言うと、父母と妹は帰っていった。
にぎやかだった病室にひとり残されると、まだ慣れないせいか少し寂しく感じる。
「ふぅー。入院か」
そう呟いてベッドに横になり、真っ白い天井を見上げた。
何か大事なことを、大切な何かを忘れている気がする。
なんだろう。それさえも解らないけど、とても大切な何か。
まぁ、頭を打ったんだし、しばらくはスッキリしないかもな。
僕は目を閉じて考えてみる。
昨日の朝、なぜ僕があの公園の前を歩いていたのか。
少し考えて思い出した。
約束……。
そうだ、約束があったんだ。大切な約束が!
とてもとても大切なことのために待ち合わせをしていたんだ。
――でも一体誰と?
お読み下さりありがとうございました。
次話「気がつけば(3)」もよろしくお願いします。