気がつけば(1)
気がつけば、またいつもと同じ白い夢の中――
いや、違う。
確かに全てが純白だが、何かフワフワとしている感じで、空はやはり白だが、どこまでも高く、壁はない。
床は、純白のサテン生地のように光沢があり、どこまでも続いている。
『なんて美しいんだろう』
ようく辺りを見渡してみると、何人もの人が微笑みあって、静かに座っている。そしてみんな純白サテンの、ローブらしきものを身に着けている。もちろん僕も。
僕は足元にある純白サテンの階段を、中程までゆっくりと降り、そっと階段に腰かけた。
なぜか、スーッと安心し、心が落ち着いてゆく。それに妙に懐かしいような、なんとも言えない優しい気持ちになってくる。
此処にこうしていると、僕がどうして此処に来たのかなんて、気にならなかった。
もうそんなことはどうでもよかった。
しばらく時が過ぎ、ふと見下ろせば、階段の横はフワフワとした、まるで大きな綿菓子のような、真っ白な雲で覆われている。
ようく見るとその雲の切れ目から、下界が広がっているではないか。
僕は時間を忘れ、人々の生活をただずっと見守っていた。
どのくらいの時間が経ったのだろう。
いや、もはや時間という概念すら、ここにはない。
ある時、僕と同じ純白サテンの、ローブのような衣を纏ったひとりが近寄ってきて、肘にかけた大きな果物かごのようなものを、僕に見せた。
覗くと、そこにはやはり純白のサテンのような衣を掛けられた、生まれたての赤ちゃんが、スヤスヤと眠っている。幸せそうに。なんて可愛いのだろう。
僕はその無垢な姿に釘付けになった。
すると、どこからともなく低く響く、厳かな男性の声が聞こえてきた。
『君は今からその赤ん坊となり、下界の新たな両親の元に、誕生するのだ』
『え、えーっ』
いやいやいや。
いくらなんでも、それは……。
その瞬間、僕は……目を覚ました。
ああ、夢か。変わった夢だったな。
ん? 何か周りが騒がしいぞ。
『此処は……何処だ?』
みんな集まっている。父、母、妹、親友、彼女ちゃん、そしてもう1人。とっても可愛いもう1人。
あ、病院か。白い天井と白い壁に囲まれた部屋の中。何か前にも見たことがある場面のような気もするが、今はなにも思い出せない。
少し広い個室にあるベッドの上で、僕は目を覚ました。体中あちこち痛くて、すぐには動けないが、ゆっくりとなら動かせた。みんなは、僕が目を覚ましたと、大騒ぎしている。誰かが先生を呼びに行ったようだ。
僕は一体何があったのか、思い出してみた。頭の中が混乱している。
ゆっくりと思いだしてみる。
あ、そうだ。僕は待ち合わせをしていた。とても大切なことのために。
その大切なことのための待ち合わせ場所に向かう途中、公園からボールを追いかけて、車の前に飛び出した男の子を助けようと……。
ああ、それで僕はここにいるんだな。
気がつけば、こんなことに……。
お読み下さりありがとうございました。
次話「気がつけば(2)」もよろしくお願いします!