クリスマス・イヴ(2)
早く行かなきゃ。先に着いて、彼女を待っているはずだったのに。
僕は彼女に言いたい言葉があるんだ。
クリスマス・イヴに彼女に言いたい言葉が。
待ち合わせ……今日は遅れるな。
『今日、僕は彼女にプロポーズをする!』
ああ、気が遠くなる……。
薄れゆく意識の中、彼女のことを思い浮かべていた。
「……」
「…………」
誰かが、僕の名前を呼んでいる。
そっと目を開けると――此処は……。
ああ、『女神の居所』だ。いつもの夢の中か。
〈女神のようなその差し出した手〉を、僕はまた追いかけている。走って、走って、やっと追いついたその華奢な手を掴もうとした、その時――
足元がガクンと下がり、奈落に落ちた。
しばらく気を失い、気がつけば今度は、辺り一面真っ暗な闇に包まれている。
前後・左右・上下全てが漆黒で、どこかに吸い込まれていきそうな、恐怖さえ感じる。
目を凝らして辺りをようく見ると、遙か遠くに1つ、ぼんやりと明かりが見える。
僕はその明かりをめがけて、ただひたすら走って、走って、走って……走った。
どのくらい走っただろう。かなり走ったはずだけれど、不思議と全く疲れていない。
『あ、そうか、これは夢なんだ』と気を取り直して、今度はゆっくりと、明かりを目指した。
――これは夢なんだ、夢なんだ……よな。
確かに『女神の居所』にいたはずなのに、今日は何かヘンだな。
かなり歩き続けて、ようやく明かりの元に辿り着いた。やっとのことでその明かりを掴もうと手を伸ばした瞬間。
僕は夢から……覚めた。
『此処は……何処だ?』
みんな集まっている。父、母、妹、親友、彼女ちゃん、そして……。
「どうしたの?」
僕が聞いてみても、みんなは無言で泣いている。無言で泣きながら、ベッドの周りを囲んでいる。
あ、ここは病院か。誰かに何かあったのかな?
僕は状況を把握しようと、親友の側に行って、小声で尋ねた。
「どうしたの? 誰かに何かあったの?」
親友は何も答えない。珍しく大泣きしていて、とても答えられる状態ではないんだろう。
僕は回りを見渡した。少し広めの病院の個室。ベッドの周りを皆で囲んで、ただただ泣いている。
父、母、妹、親友、彼女ちゃん、それともう1人。とっても可愛いもう1人。
母親が泣き崩れると同時に、急に僕は大きな声で、親友に名前を呼ばれた。みんな次々に僕の名前を呼ぶ。
「は、はい!」
びっくりして咄嗟に返事をし親友を見たが、親友はベッドの誰かの方を向いている。
僕の声が聞こえていないのか?
それに、このベッドの人は誰なんだろう。
ふと気になって、僕はベッドを覗き込んだ。
『!』
『僕!』
『僕なのか!?』
遠くでベルの音がする。
その瞬間僕は、強い力に引っ張られ、気を失った。
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