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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第4章 一目惚れ
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クリスマス・イヴ(2)

 早く行かなきゃ。先に着いて、彼女を待っているはずだったのに。

 僕は彼女に言いたい言葉があるんだ。

 クリスマス・イヴに彼女に言いたい言葉が。




 待ち合わせ……今日は遅れるな。



『今日、僕は彼女にプロポーズをする!』



 ああ、気が遠くなる……。


 薄れゆく意識の中、彼女のことを思い浮かべていた。








「……」 


「…………」


 誰かが、僕の名前を呼んでいる。

 そっと目を開けると――此処は……。


 ああ、『女神の居所きょしょ』だ。いつもの夢の中か。


〈女神のようなその差し出した手〉を、僕はまた追いかけている。走って、走って、やっと追いついたその華奢な手を掴もうとした、その時――



 足元がガクンと下がり、奈落に落ちた。

 しばらく気を失い、気がつけば今度は、辺り一面真っ暗な闇に包まれている。

 前後・左右・上下全てが漆黒で、どこかに吸い込まれていきそうな、恐怖さえ感じる。


 目を凝らして辺りをようく見ると、遙か遠くに1つ、ぼんやりと明かりが見える。


 僕はその明かりをめがけて、ただひたすら走って、走って、走って……走った。

 どのくらい走っただろう。かなり走ったはずだけれど、不思議と全く疲れていない。


『あ、そうか、これは夢なんだ』と気を取り直して、今度はゆっくりと、明かりを目指した。


――これは夢なんだ、夢なんだ……よな。


 確かに『女神の居所』にいたはずなのに、今日は何かヘンだな。


 かなり歩き続けて、ようやく明かりの元に辿り着いた。やっとのことでその明かりを掴もうと手を伸ばした瞬間。



 僕は夢から……覚めた。






『此処は……何処だ?』


 みんな集まっている。父、母、妹、親友、彼女ちゃん、そして……。


「どうしたの?」


 僕が聞いてみても、みんなは無言で泣いている。無言で泣きながら、ベッドの周りを囲んでいる。


 あ、ここは病院か。誰かに何かあったのかな?


 僕は状況を把握しようと、親友の側に行って、小声で尋ねた。


「どうしたの? 誰かに何かあったの?」


 親友は何も答えない。珍しく大泣きしていて、とても答えられる状態ではないんだろう。


 僕は回りを見渡した。少し広めの病院の個室。ベッドの周りを皆で囲んで、ただただ泣いている。

 父、母、妹、親友、彼女ちゃん、それともう1人。とっても可愛いもう1人。


 母親が泣き崩れると同時に、急に僕は大きな声で、親友に名前を呼ばれた。みんな次々に僕の名前を呼ぶ。


「は、はい!」


 びっくりして咄嗟とっさに返事をし親友を見たが、親友はベッドの誰かの方を向いている。


 僕の声が聞こえていないのか?


 それに、このベッドの人は誰なんだろう。

 ふと気になって、僕はベッドを覗き込んだ。


『!』


『僕!』


『僕なのか!?』



 遠くでベルの音がする。


 その瞬間僕は、強い力に引っ張られ、気を失った。



お読み下さりありがとうございました。


次話もよろしくお願いします。

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