表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第4章 一目惚れ
29/110

クリスマス・イヴ(1)

 今日はクリスマス・イヴ。


『今日、僕は彼女にプロポーズをする!』


 目覚まし時計の凄まじい音が響く前に目覚めた僕は、いつもより緊張して身支度を整え、予定の時間より少し早めに家を出ることにした。

 こころを落ち着かせ、今日の日を想い出に残る素敵な日にするために。


 彼女にプロポーズをするために用意したエンゲージリングを、コートのポケットに入れる。

 

 小刻みに震える鼓動。


 大きく息を吸い込んでふーっと吐き出した。

 落ち着いて、ゆっくりと彼女との待ち合わせ場所に向かうことにしよう。


 緊張と不安の入り交じった、でもなんだか楽しみでもあるような不思議な感覚。


 玄関先で家人に「行って来ます」とひと声かけると、なにかを察したのか、母と妹が妙ににやけた顔つきで見送りに来たではないか。

 いつもならリビングから「行ってらっしゃ~い」と声が飛んでくるだけなのに。


 「ふふふ。行ってらっしゃい。気をつけてね」


 母の微笑みが……なんとも言えない。


「お兄ちゃん、頑張ってね」


 にやけた妹に言われ、平静を装う。


「なにを?」


「ふふふ」


 なんか感づいてるのか?

 家族にはなにも言ってないのに。


「なんだよ、ふふふって」


「ふふふ」


 もう、これ以上は相手をしていられない。

 せっかくの気分が台無しになってしまう。

 まあ、おかげで少し緊張はほぐれたのだけど。


「行って来ます」


 そう言って玄関のドアを開ける。


 家を出て少し歩くと、子供たちの楽しそうな声で溢れる公園にさしかかる。その姿を微笑ましく見ながら公園の前を通り過ぎようとした時、ボールを追いかけて、男の子が車道に飛び出してきた。


 その時前方から車が……。


「危ない!」

 

 無意識に体が動いていた。


 ドーン!


 鈍い音とともに僕は体が少し浮いた気がした。

 スローモーションの世界の中、彼女との思い出が走馬燈のように頭の中を駆け巡り、地面に叩きつけられた。


「うっ……」


 全身に激痛が走り、身動きがとれない。

 かろうじて動くのは指先だけだろうか。


 ああ、男の子は無事だろうか。

 確認しようにも身体がいうことをきかない。

 

 そうだ。早く行かなきゃ。彼女が待ってる。

 僕は起き上がろうと……動けない。


 周りに大勢の人が集まってきて、遠巻きに僕を見ている。


「事故か?」


「ボールを追って飛び出した子供を、かばったらしいわよ」


 みんなの声は聞こえるけれども、動くことすらできないでいる。


 すると1人の男性が近づいてきて、大声で叫んだ。


「誰か、救急車を早く! 救急車を呼んでくれ!」


 そして彼は倒れている僕に声をかける。


「大丈夫か?」


 僕の方はどうやら大丈夫ではなさそうだけど、それよりも気になることが。


「こ、子供、子供は……」

 

 僕は声を絞り出した。


「ああ、大丈夫だ。君のおかげで擦り傷ひとつ無いよ」


「よかっ……た……」


 早く行かなきゃ。先に着いて、彼女を待っているはずだったのに。

 僕は彼女に言いたい言葉があるんだ。

 クリスマス・イヴに彼女に言いたい言葉が。



 


 待ち合わせ……今日は遅れるな。



『今日、僕は彼女にプロポーズをする!』



 ああ、気が遠くなる……。


 薄れゆく意識の中、彼女のことを想い浮かべた。



お読み下さりありがとうございました。


次話「クリスマス・イヴ(2)」もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ