今日、彼女にプロポーズをする
……明日、プロポーズするつもりだ。
明日はクリスマス・イヴ。
あの秋の日に決心してから、ずっとこの日を心待ちにしていた。
いろいろとプランを考えては練り直し、の繰り返しだったが。
僕が彼女を想う気持ちはだんだんと大きくなっていくばかりだ。
彼女とは山あり谷ありと色々あったが、今でもあの頃と、付き合いだした頃と気持ちは変わらない。
いや、以前にも増して、彼女を想う心が溢れている。
彼女はいつも冷静で、しっかり者だ。そのくせ少々ドジなところもあり、何故か放っておけない。そのギャップが何とも可愛い。
そして何より、あの澄んだ瞳の、くったくのない笑顔で見つめられると、
『ああ、この人と一生一緒にいられたらなぁ』
漠然とした思いが、今では必然になっている。
これほどまでに強く愛した女性は、今までも、そしてこれからも、彼女だけだ。
エンゲージリングも、もう用意してある。デートの度に申し込もうと思うけれど、緊張のあまり、いつも言えずにいる。
『明日こそ、彼女にプロポーズをしよう』
女性は、ロマンティックなシチュエーションに憧れるというけれど、僕から見たそれと、彼女のそれとでは、少し違うのでは?
でも、一生懸命考えて僕の想いを届けたら、きっと伝わるんじゃないかな。
あれこれ考えるより、今夜はもう眠るとしよう。
明日が少し怖くもあり、待ち遠しくも思えた。
『僕はずっと、彼女に言いたい言葉があるんだ』
そうこころに浮かべた言葉を想いながら、うとうとと眠りの森へと吸い込まれていった。
しばらくすると、遠くで誰かの声がする。
「……」
「…………」
鈴を転がしたような澄んだ声が、僕の名前を呼んでいる。優しい、そしてどこか懐かしいその声に、夢の中で目を覚ました。
そっと目を開けると……。
『此処は……』
――全てが真っ白な世界――
あの日以来訪れることはなかった場所。
そう、『女神の居所』だ。
〈女神のようなその差し出した手〉を、また僕は追いかけている。追いかけて、追いかけて、追いかけてやっと追いついた。
やっと捉まえて、透き通るように白く華奢な、その壊れそうな手を手繰り寄せ、顔を覆っていたベールを上げた。
目覚まし時計の凄まじい音が響く前に目覚めた僕は、
『今日、彼女にプロポーズをする』
お読み下さりありがとうございました。
次話より『第4章 一目惚れ』に入ります。
次話「クリスマス・イヴ(1)」もよろしくお願いします!
引き続き楽しんで下さると嬉しいです。