大切な人
彼女とのデートのプランを考えていると、あっという間に1日は過ぎてしまう。もちろん仕事はちゃんと熟している。一生懸命に取り組んでいる。が、しかし、ふとしたときに考えてしまう。
彼女の楽しそうな笑顔を見たいがために、仕事の合間に、そう合間にちょっとだけ。
ヤツとは10月の本配属で別々の部署になり、それ以降は以前ほどには顔を合わさなくてすむようになった。
ある意味、少し平穏な日々を取り戻しつつある。
10月には街を歩いていても、大小様々なかぼちゃのオブジェに目を丸くしていたが、11月に入ると途端に街は静まりかえる。
クリスマスまでの休憩とでも言おうか。
年々イベントのCM時期が早まり、間もなく大きなツリーがお目見えすることだろう。
明日のデートのプラン。ああそうだった。今の時期はあの山に行ってみようか。
紅や黄金に染まる空、いやアーケードのような紅葉。
観光客で賑わうその山は、地元の僕たちは案外行かないもので新鮮さを感じる。
最寄りの駅から土産物屋を見ながらゆっくりと歩けば、目的地の紅葉に彩られた滝までは30分ほど。途中に洒落た喫茶店などもあり、疲れたら休憩もできる。
また、ドライブウェイコースもあり、名所である滝には車で行くこともできるのだ。
僕たちは帰りのことも考えて、車で上ることにした。約10分、くねくねと曲がりくねった山道を慎重に運転する。駐車場に車を止めて、そこから階段を降り、観光用のパンフレットの表紙にもなるほどの、手前の紅葉が迫り来るような迫力の滝の前に佇む。
圧巻である。
他の観光客に頼み、写真をパチリ。
滝の近くの茶屋で抹茶と和菓子を注文して、すっかり和の雰囲気を楽しむ。
それから近くの出店で『焼き栗』と『焼きぎんなん』を買ってベンチで食べることにした。
「秋だなぁ」
「ほんと、綺麗ねぇ」
なんて言いながら。
僕は彼女との時間を大切にしたいと、いや、これからもずっと大事にしていきたいと思った。
物の見方、価値観が似ているということはもちろんのこと、たとえ考え方が違っていたとしても、お互いの想い、感じ方を尊重し合える関係。心地良い距離感で、一緒にいてくつろげる。僕にとっての彼女はそんな存在だ。
心から大切に想う、想える人だ。
これはずっと以前から考えていてことだが、なかなか一歩前に踏み出せない自分がいた。
でも、今は違う。
やっと決心したんだ。
お読み下さりありがとうございました。
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