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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第3章 大切な人
24/110

告白記念日(2)

 今日は、彼女とディナーの約束。はやる気持ちを押さえつつ、会社を後にする。


 外に出ると、そこにはひとつの人影が待ち構えていた。


 ……ヤツ・・だ。


 僕を見つけると走り寄ってきて、一緒に帰ろうと手を繋ごうとする。

 それを拒否してキッパリと言った。


「約束があるから」


「デート? 私もついて行っちゃお」


 デートと解ってついて行くとか言うか?


「帰れよ」


「私のことキライ?」


「キライとか、そういうんじゃなくて」


 こんなに迷惑してるのに、なぜか嫌いになれない自分がいる。


「じゃあ、好きなの?」


「好きじゃない」


「でも、キライじゃないんだ。うふっ」


「はー、お前には負けるよ」


 のれんに腕押しとはこのことか。

 仕方なく歩き出すと、ヤツ・・もついて来る。


「でも、何で僕なんだ? 彼女のいないイイ男は、他に一杯いるだろう? お前のこと好きだっていう人もいるかもしれないよ」


 するとヤツ・・は、いつになく真面目な顔で、話し出した。


「入社して間もない頃、慣れない電話応対で注文を受けた時、うっかり間違えて、“0”を1つ多く入力しちゃって、大騒ぎになったことがあったでしょ」


「ああ、そんなこともあったな」


 まあ、あまりしないミスだけど、今のコイツを見ていれば頷ける。


「その時、上司には叱られるし、先輩にはイヤミを言われるし、同期はみんな、陰でヒソヒソ言うだけで、知らんぷりだし……もう、どうしたらいいか解んなくなって、半ベソかいてた」


「うん」


「でもあなたは、何も言わず一生懸命みんなに頭を下げて、一緒に謝ってくれて、発注もし直してくれた」


「そうだったかな」


「そうだよ! 入社式の時から『素敵な人だなぁ。いつか仲良くなりたいな』とは思ってたけど、その件があったときに、この人は見た目だけじゃなくて、内面も優しくて、男気のある人なんだなぁって思ったの。それからあなたは、私の王子様になったのよ」


「それは買い被りだよ。それに、僕は王子様なんかじゃない。た・だ・の、普通人。困ってる人がいるのに、見過ごせなかっただけだからね。それに同期だし。他の誰かでも同じことをしたよ」


「そういうところが好き」


 まただ。


「あんまり軽々しく好きって言うもんじゃないよ」


「そういうところも好き」


「ったく。でもダメだよ。僕には最愛の彼女……」


「彼女がいるから、でしょ。でも、勝手に好きでいることは、止められないよねぇ」


 言葉をかぶせるようにヤツ・・は強い口調でそう言うと、腕を組んできた。


「離せよ、もう帰れ」


 ヤツ・・の腕を振り払い、少し強めに言ったんだが。


「普通の男なら私の魅力にイチコロなんだけどねぇ」


 まあ、黙ってれば可愛いし、猫なで声も猫派にはグッとくるかもしれない。


「じゃあ、普通の男と付き合えば?」


 性格的にもちょっと変わってるところはあるけど、僕に妙に懐きすぎるところ以外はそれほど……。


「なかなか振り向いてくれないひとを振り向かせるのが楽しいの」


 なんだそれ。


「お前とどうこうなることは、絶対にない」


 また組もうとするその腕を振りほどいて早足で歩き出すも、


「それでもいいもーん」


 はあ?

 その積極性を仕事に活かせばいいのに。


 悪びれる様子もなく、とうとう待ち合わせ場所までついてきて、ニコニコして僕の横に立っている。


 彼女はキョトンとして、僕とヤツ・・をただ見比べているだけだ。

 どういうつもりなのだろう。

 仕方がないので、ヤツ・・を彼女に紹介することにした。



むむむ。

どうして。どうする? どうなっちゃうの!?


お読み下さりありがとうございます。

次話「告白記念日(3)」もよろしくお願いします!


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