5年後の日常(4)
「んー」
両手を上げて、思いっきり伸びをした。午前中の仕事が終わり、待ちに待った昼食だ。
「いっただきまーす」
机の上に弁当を広げ、元気良く母特製の卵焼きを頬ばる。やっぱり母の作る卵焼きは格別だ。
周りの席の同期たちと楽しく喋りながら食べていると、例のごとくヤツがやって来た。
「わあー、おいしそうな卵焼き。1つちょうだい」
「だめー」
「私も今日はお弁当持ってきたの。隣で一緒に食べてもいーい?」
「ここは男子専用。仕事の話とかしてるから、お前も女子と食べて来いよ」
「だってぇ、他の女子はみんな真面目すぎて、気が合わなーい」
と、フワフワパーマの毛先を、人差し指でクルクルしている。
「お前はもっと真面目になれ!」
僕たちのやり取りに、同期は皆苦笑いをしている。その時、僕の仲良くしている同期が言った。
「お前、いい加減諦めろよ。コイツには6年も付き合ってる、メチャクチャ可愛い彼女がいるんだぞ」
「知ってるもーん」
「なら諦めろ」
「でも6年て長いよねぇ。長すぎた春なんてね。ふふふ」
「お前の入り込む隙間なんか、これっぽっちもないんだからな」
「彼女なんかより、私の方がぜーったい、いいと思うけどなぁ」
そう言いながら少しほっぺを膨らませて、可愛いアピールとともに背を向けるヤツ。
彼女のこと、知りもしないくせに。
ヤツに追いかけ回される日々が、あとどのくらい続くのかと思うと、少し憂鬱になった。
あー、早くヤツが他の誰かと、付き合ってくれますように!
心からそう願う。この職場での煩わしいやり取りから1日も早く解放されたい。
ヤツが去って行った後、仲の良い同期が同情の眼差しで、僕の肩にポンと手を置いて言う。
「お前も大変だな。帰り、飲みに行くか? 愚痴聞いてやるぞ」
「おう。愚痴よりもっと楽しい話をしようぜ。……お前、最近彼女ができたらしいな」
僕はヒヒヒと笑いながら、同期の脇腹を肘でつついた。
「お、俺の話はいいからさー、お前の彼女の話を聞かせてくれよ」
そんなに照れなくても。ちゃんと聞いてやるよ。
「そりゃあ、一晩じゃ語れないなぁ」
その日は、同期と夜遅くまで語り合った。仕事のこと、お互いの彼女のこと、将来の夢……。
話しても、話しても、話は尽きなかった。
「今日は、ありがとな」
「おう、また飲みに行こうぜ。一晩じゃ語れない続き、聞いてやるからさ」
そうして、僕の平穏じゃなくなった1日が、終わろうとしている。
疲れた体を、ベッドに放り込んだ。
お読み下さりありがとうございます。
次話「告白記念日(1)」もよろしくお願いします!