5年後の日常(3)
会社に着くと、いつものように同期入社のヤツが、そそくさと僕のところにやってくる。同期はたくさんいるというのに、どうしてヤツと同じ部署に配属されてしまったのだろう。ロクに仕事もしないでベラベラ喋っていて、失敗すると泣きついてくる。今まで僕の回りには、いなかったタイプだ。
『同期のよしみ』ということで、助けはするけど、正直少し苦手なタイプだ。見た目は普通に可愛いけど。そしていつも猫なで声で話しかけてくる。他の男だったらイチコロなのかもしれないが、あいにく僕は、犬派なのでね。
「おはよう。今日も1日ヨロシクねぇ」
「おはよう」
挨拶だけして廊下に出ると、いつものようにヤツが追いかけてきた。
「ねえねえ、今日は一緒にお昼ご飯食べようよぉ」
「はぁ? 何でお前と?」
「いいじゃん、いいじゃん、一緒に食べようよぉ」
そう言いながら、僕の腕に両手を巻きつけてくる。
「何するんだ、やめてくれ」
まったく、何を考えているのだろう。
腕を振りほどくと、ヤツは唇をとがらせて言う。
「どーしてぇ~。ちょっとぐらい、いいじゃん」
「何考えてるんだ! ここは会社だぞ」
ったく、彼女でもないのに気安く腕など組まないでほしい。
「じゃあ、会社じゃなかったらいいのぉ?」
そんな上目づかいをしてもダメ!
「どこでもダメだ。いいか、僕にはちゃんと彼女がいるんだ」
「私には彼はいませぇーん」
この会話も何度してきたことか。
「そんなこと僕には関係ない。お前も早く彼氏を作れ」
「目の前にいますぅ」
「僕には彼女がいるって言ってるだろ」
「えー、別れちゃえばいいのにぃ」
いい加減やめてほしい。
「別れるわけないだろ! ったく、何言ってんだ」
少々キツめの言い方になったが、仕方がない。
これ以上話すことはなにもない。
不機嫌な顔つきで僕はデスクに戻った。
いつものこととはいえ、朝から気分が悪い。
入社して3ヶ月、この日常の繰り返しがいつまで続くのだろうか。
こんな調子で、僕の新社会人生活は、あまり平穏とは言えないかも。
平穏な毎日を過ごしたいのに。
人生ままならない。
お読み下さりありがとうございました。
次話「5年後の日常(4)」もよろしくお願いします!