遊園地 (今までも、これからも……)ー2
帰り道、彼女から思いがけないことを聞いた。
「昨日の帰りね、あなたと別れてから、親友クンと彼女ちゃんと私の3人になった時に、親友クンに言われたの」
「えっ、何を?」
彼女は親友との会話を話し出す。
『アイツの気持ちも解ってやってほしい。お前は口に出して言ってほしいって言うけど、人には得手不得手っていうものがあるんだ。俺みたいなタイプだと、そんなに苦にはならない。でもアイツの性格は、絶対と言っていいほど、本人には自分の気持ちは言わない。とにかく照れ屋なんだ。それは解るよな』
『うん』
『お前に告白したのだって、相当勇気がいったと思うよ。今まで好きな人ができても、1回も告白なんてしなかったんだから。その苦手なことをやってのけたんだから、アイツなりにかなり頑張ったはずだ』
『うん』
『心配しなくても、アイツのおまえに対する気持ちは、何も変わってないと思うよ。現にいつも俺には、お前のここが好きだとか、ここが可愛いとか言ってのろけてるからな』
『本当?』
『ああ。でも恥ずかしいから、本人には絶対に言わないって言ってるけど』
『ふふっ、そうなんだ』
『アイツも恥ずかしさのあまり、お前の気持ちを察する余裕がなかったんだ。でも今は変わろうとしてる。そこらへんを汲んでやってほしいんだ。時間はかかると思うけど、ゆっくりと見守ってやってくれないかな』
『うん』
『それから、お前も相手に変わってほしいと思ったら、まず自分が変わらないと。待ってるだけじゃ、何も変わんねぇよ。相手に要求するだけじゃな』
「って。親友クンの言葉にハッとさせられた。あなたに変わってほしいと思ったら、まず自分が変わらないと。小さなことで一喜一憂して、怒ったり、泣いたり、悩んだりして……。自分でもそこが嫌なところ。だから、これからはあなたに言ってほしい時には、先に自分から言っちゃう」
そう言って笑う彼女の笑顔はとても眩しい。
彼女なりに考えてくれていたんだな。僕も変わらなきゃ。
「僕も努力するよ。すぐには無理かもしれないけど、伝えたい時にちゃんと言葉に出して言うよ。これからは、思ってることをお互いに、素直に言い合える関係を築いていこうよ」
「うん、そうなれたら素敵だね。あ、それと、親友クンにも言っておいたよ」
「え、何を?」
「あなたが本人には絶対に言わないこと。『いつも感謝してる』って言ってたって」
いやいや、笑い事じゃないでしょ。
「えー、そこは言っちゃダメでしょう!」
「親友クン、喜んでたよ。『そうか、そうか』って」
「はあー、本人に伝わるのって、やっぱ恥ずかしいよなぁ」
今夜は朝とは違って、とてもスッキリと、晴れやかな気持ちでベッドに横になっている。今日はゆっくりと眠れそうだ。
『ん……此処は』
いつもの『女神の居所』だ。前後・左右・上下全てが純白の世界。
『君は……誰?』
〈女神のようなその差し出した手〉を、僕は今日も追いかける。
顔も見えないはずなのに、神秘の女神のその姿はどこか懐かしく、僕に優しさと勇気を与えてくれる気がする。
いつしか諦めかけた、追いかけても追いかけても届かない、〈女神のようなその差し出した手〉をまたゆっくりと追いかけている。じれったいというよりは寧ろ、この微妙な距離感が、いつしか心地良くも感じられるようになっていた。
だけどこの日以来、僕は『女神の居所』を、訪れることはなかった。
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