遊園地 (今までも、これからも……)ー1
今話は、前話での1年前の出来事を踏まえて、今日彼女との待ち合わせ場所に向かうところから始まります。
僕が彼女に告白して1年余り、僕たちの“恋”は、ゆっくりと進んでいった。ゆっくりと、僕たちなりのスピードで、ゆっくりと……。
そして今日――
予定の時間より少し早めに家を出て、公園や見慣れた街並みに目をやりながら、ゆっくりと彼女との待ち合わせ場所に向かうことにした。
いろんな想いを胸に、そして噛みしめながら歩く。
僕は待ち合わせの30分前に、駅前広場に着いた。
去年のあの日と同じ時間、同じ場所で彼女を待っている。
そして想い出していた。
1年前のあのワクワクとした、ドキドキとした胸の高鳴り。
1年前には想像すらできなかった昨日。
僕の隣にはいつも彼女がいる。そして、僕の大好きな笑顔を見せてくれる。
――それだけで、幸せだった。
だけど、今日はどんな顔をして彼女に会おう。
余計なことを色々考えると、気が滅入ってくる。
待ち合わせの10分前に彼女がやって来た。僕の姿を見つけると、いつものようにニコッとして、右手を大きく振り、それからロングヘアをなびかせながら走って来る。
「おはよう。走らなくてもまだ10分前だよ」
「おはよう。待たせてゴメンね」
「僕も今着いたところだから」
「そうなの? 今日は私が先に来て『遅い!』って言ってやろうと思ってたのに、残念」
何事もなかったかのように、彼女はいつもと同じ笑顔を見せてくれる。我慢させているのかと思うと、胸が痛む。
『去年と同じことがしたい』と言うので、彼女の言う通りにした。
そして残暑厳しい中食べたかき氷は、また格別で。案の定、頭がキーンと痛くなり、また2人で笑い転げた。去年と同じ。
ジェットコースターに乗り、観覧車にも乗った。去年と同じように。
観覧車での2人だけの空間。
頂上から見える、夕陽を浴びてキラキラと輝く海。
「うわぁ、きれい!」
彼女は瞳を輝かせ、またうっとりと見入っている。
去年と同じだ。今なら素直になれそうな気がした。
それから観覧車を降りるまで、2人ともじっと夕陽を眺めていた。
そして地上に降りると、走って浜辺に向かった。
全て去年と同じように。
砂浜に着くと、彼女は小走りで波打ち際まで行き、海に溶ける夕陽を見つめている。
僕は少しの間、夕陽に映る後ろ姿を見つめていた。
愛おしい、なのに哀しませてしまった彼女の後ろ姿を。
それからゆっくりと歩いて、背中からそっと抱きしめた。大好きな彼女を。
そしてそのまま彼女の耳元でもう一度伝えた。
「キミに、言いたいことがあります」
彼女の体が強張った。
「ずっと、ずっと……心からキミが好きです。今までも、これからもずっと変わらない」
僕の腕に温かい雫が落ちてくるのを感じた。
「私も……心からあなたが好きです。今までも、これからも。たとえ何があったとしても」
涙のせいか少し震えた彼女の声は、それでもハッキリと僕のこころの奥に届いた。
これほどまでに温かい言葉があるだろうか。
これほどまでに僕のこころを占領する人はいるだろうか。
僕はそのまま彼女のほっぺにキスをした。そしてその横顔に、そっと囁いた。
「待たせて、ゴメン」
「遅いよ」
そう言って、彼女は微笑んだ。
そのまま2人で、夕陽が水平線の彼方に消えてゆくのを見送った。名残を惜しみながら。
いつまでも、いつまでも。
けれど、その帰り道、彼女から思いがけないことを聞いたのだ。
彼女はなにを語ったのでしょう。
お読み下さりありがとうございました。
次話「遊園地 (今までも、これからも……)ー2」もよろしくお願いします!