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『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第2章 言わなかった言葉
16/110

遊園地 (キミの笑顔ー3)     ✩挿し絵あり

『観覧車』


 ここの観覧車から見る景色は格別だと、とても有名。

 彼女とふたりでどうしてもその景色が見たかった。


 有名なだけあって、待ち時間もそれなりにある。

 でも、どんなに長い待ち時間も、彼女と一緒なら一瞬に感じるほどだ。


 ……いや、それは言いすぎだが。

 とにかく彼女との時間はとても短く感じられる。



 長い列を少しずつ進み、やっと順番が回ってきた。

 いや、もう順番が回ってきたと言うべきか。


 突然の2人だけの空間。

 1周約15分間の空間。

 僕たちは少し緊張していたが、間もなく目の前に広がった景色に釘付けになった。下にいる時には見えなかったすぐ側の海が、夕陽を浴びてキラキラと輝いている。


『うわぁ、きれい!』


 彼女は瞳を輝かせ、またうっとりと見入っている。

 僕は、みんなといる時には見せないそんな彼女の表情にドキッとした。


 言えずにいる一言を、つい言ってしまいそうになる。



 それから観覧車を降りるまで、2人とも無言のままずっと夕陽を眺めていた。

 でもそれは心地良い沈黙の空間だった。


 観覧車を降りるときの『海に沈む夕陽が見たい』という彼女の言葉に、『まだ間に合うかも』と走って浜辺に向かう。


 8月も、もう終わろうとする平日の夕暮れの海は人もまばらで、少しロマンティックな雰囲気がする。


 砂浜で、2人並んで見つめる水平線。


 夕陽の後押しを受けて、ずっと言いたくて、言えなかった言葉を言うことにした。

 もしそれで、それまでの2人の関係が崩れてしまおうと、その時の僕には、言わずにいるという選択肢は無かった。


 彼女の方へ向き直って、僕は口を開いた。


『キミに、言いたいことがあります』


 彼女は一瞬ピクッと動いて、それからこちらを向く。

 僕は呼吸を整えて、一生懸命に想いを告げた。


『ずっと、ずっと言いたかった。……心から、キミが好きです』


 けれど彼女は何も言わない。


 奥手の僕には初めての告白で、この沈黙をどう過ごせばいいのか解らなかった。ただ心臓が大きく脈打っているのを聞いているだけで。


 周りから見ればほんの一瞬のことなのかもしれないが、この静寂せいじゃくは僕には耐えがたいほどの重圧を生み出している。


 ああ、これまでか。

 僕たちの関係も、もう普通の友達同士にも戻れなくなるのだろうか。


 言わなければよかったのか。


『後悔』という二文字が僕の頭をよぎりかけたときのことだった。



 彼女の、僕を見つめる瞳が、みるみるうちに涙でいっぱいになってゆく。


『えっ』


 彼女の涙の理由わけが解らず、鼓動が、また大きく鳴り響いた。


『ずっと……待ってた。ずっと言ってほしかった。私も……心からあなたが好きです』


 彼女の瞳から、大粒のしずくこぼれた。

 その言葉に、僕は思わず彼女を抱きしめる。


『待たせて、ゴメン』


『遅いよ』


 夕陽に照らされながら、もっと強く彼女を抱きしめた。



 どのくらい経ったろう、夕陽は水平線の向こうに沈んで、辺りはその名残を惜しんでいる。


『そろそろ帰ろうか』

 

 と彼女に目をやると、頬には涙の後が残っている。僕は指でその涙を拭って、彼女に言った。


『笑って。僕はキミの笑顔をずっと見ていたいんだ』


 すると彼女は、飛びきり上等の笑顔を見せてくれた。


 この世の中に、こんな天使のような人が他にいるだろうか? 

 僕の恋心を差し引いても、周りにはなかなか見当たらない。きっと、ご両親が大事に育てられたんだろうな。


 僕も、彼女を大切にしようと心からそう思った。




挿絵(By みてみん)




 それから1年余り、僕たちの“恋”は、ゆっくりと進んでいった。

 ゆっくりと、僕たちなりのスピードで、ゆっくりと……。


 そして今日――

 


お読み下さりありがとうございました。


次話「遊園地 (今までも、これからも……)1」もよろしくお願いします!

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