遊園地 (キミの笑顔ー1)
『遊園地』は1年前の回想です。
目覚まし時計の凄まじい音が響く前に目覚めた僕は、いつもより緊張して身支度を整える。
大きく深呼吸をして、予定の時間より少し早めに家を出る。ゆっくりと彼女との待ち合わせ場所に向かうことにしたからだ。
途中、公園や見慣れた街並みに目をやりながら、1年前のことを想い出していた。
1年余り前の、夏休みももう終わろうとしていた頃。既に付き合っていた親友たちと、まだ付き合ってはいなくて、お互いの気持ちも解らないでいた僕と彼女の4人で、遊園地に行く計画を立てていた。なのに前日になり突然、親友と彼女ちゃんが行けなくなったという。
いわゆるドタキャンだ。
『どうしようか』と彼女と話していると、『折角だから2人で行って来い』と言われた。
以前から彼女に片想い中だった僕は、内心小躍りしたいのを隠しながら、渋々オッケーしたふりをする。
後に解ったことだが、僕の気持ちを知った親友たちが、気を使ってくれたらしい。
感謝。
当日、緊張のあまり殆ど眠れなかった僕は、少し早めに家を出た。約束の時間より30分も前に着いたが、待っている時間も既に楽しく思えた。
待ち合わせの10分前に彼女がやって来た。僕の姿を見つけると、ニコッとして右手を大きく振り、それからロングヘアをなびかせながら走ってきたのだ。
『おはよう。走らなくても、まだ10分前だよ』
『おはよう。待たせてゴメンね』
彼女の可愛すぎる笑顔にドキッとしたが、気づかれないように。
『ぼ、僕も今着いたところだから』
と、爽やかな笑顔で返したつもりだったが、きっとぎこちない笑顔になっていただろう。
それから電車で遊園地に向かった。道中、話は大いに盛り上がり降車までの30分は、あっという間だった。
駅から10分程歩いたところに遊園地はある。楽しく話に花を咲かせていると、20m程ある横断歩道の中程で、歩行者用信号機が点滅しはじめたではないか。僕は思わず彼女の手を取って、向こう側まで走って行った。
渡り終えると、走ったせいかどうか、2人とも頬が少し紅くなっているように感じた。
どちらともなく手を離し、何事も無かったかのように、また話しながら歩いてゆく。
パーク内では色々な乗り物に乗った。とにかく時間の許す限り乗りまくって楽しもうと。
……がしかし、彼女の風になびくサラサラロングヘアと、くりくりっとした大きな目、よく変わる表情、優しい笑顔に見とれているのを悟られまいと、必死に平静を装っていたオレは、かき氷を食べたことと、ジェットコースター、観覧車に乗ったこと、……そしてその後の大切なこと以外は、殆ど覚えていない。
お読み下さりありがとうございます。
次話『遊園地 (君の笑顔ー2)』もよろしくお願いします!