表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第2章 言わなかった言葉
13/110

言わなかった言葉(3)

 さっきの彼女との会話が頭をよぎった。


『ちゃんと話してくれないと、ちゃんと言葉にして言ってくれないと、解んないよ』

 そう言ったのは僕だ。


『そう、ちゃんと言葉に出さないと解んないのよ。あなたは何も言ってないわ。何も。人の気持ちなんて、黙ってちゃ解んないのよ!』


 彼女の言った言葉を思い出し、


 ドキンとした。


 僕の言った言葉ではなくて、僕の言わなかった言葉で……


 僕は彼女を傷つけた。



 彼女を不安にさせていたんだ。彼女の気持ちを想うと、いてもたってもいられなくなった。


「……2人とも、ありがとう。彼女を探しに行ってくるよ」


「おう、しっかりな」


 心の中の気持ちを言葉にするのは、僕にとってはとても難しい。でも言わないと、相手には伝わらない。

 言葉にする恥ずかしさより、言葉にせずに彼女を傷つけた、自分の情けなさの方が……ずっと恥ずかしい。



 彼女は、渡り廊下の手すりに寄りかかり、じっと中庭を見ていた。寂しげな後ろ姿に胸が痛む。


 僕は彼女の傍に行って、背中越しに彼女に言った。


「ごめん」


 彼女は何も言わない。


 沈黙の時間ときが過ぎ、しばらくして彼女は大きく一息つき、口を開いた。


「明日の創立記念日、遊園地に行こうよ」


「……うん」


 彼女の意図は解らなかったが、そう答えるのが精一杯だった。



 間もなく下校の合図が鳴り響いた。

 僕たちは、その合図に促されるように教室に鞄を取りに戻ると、心配そうに2人が待ってくれている。


 そのまま僕たち4人は帰路についた。

 親友と彼女ちゃんが気を使って、楽しい話をしてくれている。

 そのおかげで僕と彼女は何事もなかったかのように、いつもと同じく4人でワイワイしながら歩くことができた。


 何も聞かない彼らの優しさが、身にしみる。




 疲れた体をベッドに投げやり、今日のことを思い出し、そして明日のことを思い浮かべた。


 遊園地。僕たちが初めて2人きりで出かけて、僕が彼女に告白した場所。2人の始まりの場所。


 明日ちゃんと彼女と話をしよう。



 平穏ではなかった僕の1日も、もうすぐ終わろうとしている。





* * *



 僕は『女神の居所きょしょ』にいた。

 今日もまた〈女神のようなその透き通るように白い手〉を、追いかけて、追いかけて、追いかけた。


 女神の後ろ姿は、どこか哀しそうに見える。


『どうしたの?』


 誰も答える訳もない。

 顔も見えないはずなのに、その瞳は潤んでいるように感じた。


 あと少し……届きそうで、届かない。少しじれったい微妙な距離。


 僕は諦めずに、ずっと追いかける。


 いつか追いつくと信じて――



言葉に出して言わなければ、何も伝わらない。

でも、言葉で想いを伝えるのは難しい。

だからといって逃げていては後で必ず後悔する。


今伝える、一歩を踏み出す勇気を持って!


お読み下さりありがとうございます。


次話「遊園地 (君の笑顔ー1)」もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ