言わなかった言葉(3)
さっきの彼女との会話が頭をよぎった。
『ちゃんと話してくれないと、ちゃんと言葉にして言ってくれないと、解んないよ』
そう言ったのは僕だ。
『そう、ちゃんと言葉に出さないと解んないのよ。あなたは何も言ってないわ。何も。人の気持ちなんて、黙ってちゃ解んないのよ!』
彼女の言った言葉を思い出し、
ドキンとした。
僕の言った言葉ではなくて、僕の言わなかった言葉で……
僕は彼女を傷つけた。
彼女を不安にさせていたんだ。彼女の気持ちを想うと、いてもたってもいられなくなった。
「……2人とも、ありがとう。彼女を探しに行ってくるよ」
「おう、しっかりな」
心の中の気持ちを言葉にするのは、僕にとってはとても難しい。でも言わないと、相手には伝わらない。
言葉にする恥ずかしさより、言葉にせずに彼女を傷つけた、自分の情けなさの方が……ずっと恥ずかしい。
彼女は、渡り廊下の手すりに寄りかかり、じっと中庭を見ていた。寂しげな後ろ姿に胸が痛む。
僕は彼女の傍に行って、背中越しに彼女に言った。
「ごめん」
彼女は何も言わない。
沈黙の時間が過ぎ、しばらくして彼女は大きく一息つき、口を開いた。
「明日の創立記念日、遊園地に行こうよ」
「……うん」
彼女の意図は解らなかったが、そう答えるのが精一杯だった。
間もなく下校の合図が鳴り響いた。
僕たちは、その合図に促されるように教室に鞄を取りに戻ると、心配そうに2人が待ってくれている。
そのまま僕たち4人は帰路についた。
親友と彼女ちゃんが気を使って、楽しい話をしてくれている。
そのおかげで僕と彼女は何事もなかったかのように、いつもと同じく4人でワイワイしながら歩くことができた。
何も聞かない彼らの優しさが、身にしみる。
疲れた体をベッドに投げやり、今日のことを思い出し、そして明日のことを思い浮かべた。
遊園地。僕たちが初めて2人きりで出かけて、僕が彼女に告白した場所。2人の始まりの場所。
明日ちゃんと彼女と話をしよう。
平穏ではなかった僕の1日も、もうすぐ終わろうとしている。
* * *
僕は『女神の居所』にいた。
今日もまた〈女神のようなその透き通るように白い手〉を、追いかけて、追いかけて、追いかけた。
女神の後ろ姿は、どこか哀しそうに見える。
『どうしたの?』
誰も答える訳もない。
顔も見えないはずなのに、その瞳は潤んでいるように感じた。
あと少し……届きそうで、届かない。少しじれったい微妙な距離。
僕は諦めずに、ずっと追いかける。
いつか追いつくと信じて――
言葉に出して言わなければ、何も伝わらない。
でも、言葉で想いを伝えるのは難しい。
だからといって逃げていては後で必ず後悔する。
今伝える、一歩を踏み出す勇気を持って!
お読み下さりありがとうございます。
次話「遊園地 (君の笑顔ー1)」もよろしくお願いします!