今までも、これからも。 ✩挿し絵あり
今話で完結です。
あの頃も波打ち際で、海に溶ける夕陽をずっと見つめていた。
どこまでも続く空と海。
今も目の前の碧海はキラキラと輝いている。
「やっぱりここから見る夕陽は、きれいだな」
懐かしく優しい想いを想い出し、温かい気持ちで自然と言葉が零れていた。
「そうね」
穏やかで澄んだ懐かしい声が僕の耳に届いた。
声のする方を見ると、白いワンピース姿の彼女が立っている。
「キミも来たのか」
ちゃんと手紙は届いたのだな。来てくれたのか、と安堵する。
「手紙……ありがとう」
久しぶりに会う彼女は、やはり眩しすぎる。
「うん」
夕陽に照らされた白いワンピースが、ほんのり薄桃色に染まってゆく。
「ホント、支離滅裂」
彼女の白い肌も落日に紅く染まってゆく。
「うん」
彼女は優しく微笑んだ。
僕はそのまま暫く夕陽を眺めていた。そして聞いてみた。
「どうして僕達の記念日に、今日の日に結婚式を挙げようと思ったの?」
ずっと気になっていたこと。とても知りたかった答え。
「違う想い出を作って、あなたとの想い出の上に、貼り付けたかったの」
そういうことだったのか。
「そうか」
僕の中のなにかが、スーッとほどけたような気がした。
「それで、2人の想い出は海に流せた?」
彼女の問いに、僕は素直に答えた。
「キミが来る前にね。全部海に流してしまったよ」
「……そう」
俯いて、少し寂しげに呟いた彼女に僕は言った。
「でも……波は、寄せては返すからね」
そう。波は寄せては返すもの。
想いも。誰かを想う気持ちも寄せては返すもの。
「いつまでたっても流せないね」
彼女はそう言って微笑んでいる。
誰かを想う気持ちは、純粋で美しいものだ。
それを止めてしまうなんて、誰にもできはしない。
「無理して流してしまうことは、ないんじゃない?」
思いきって僕はそう言ってみた。
「えっ?」
少し驚いた表情の彼女の方を向き、僕は大きく一息ついた。
「キミに言いたいことがあります」
彼女の体が強張ったのが解る。
僕はひざまずき、ポケットからビロード地の四角いケースを取り出すと、蓋を開け、エンゲージリングを彼女に差し出した。
「ずっと、ずっと……心からキミを愛しています。僕と結婚してください」
「あ……」
彼女の瞳から、大粒の涙が溢れた。
その宝石のような煌めきは、次から次へと溢れていく。
「ずっと……待ってた。ずっと言ってほしかった。
私も……心からあなたを愛しています。よろしくお願いします」
涙を拭いながら一生懸命話す彼女を、一生守っていこうと心に誓う。
「待たせて、ゴメン」
「遅いよ」
そう言うと彼女は、僕の元に駆け寄って胸に飛び込んできた。僕は夕陽に照らされながら、強く彼女を抱きしめる。
「もう二度と離さない。ずっとキミを愛し続ける。今までも、これからも。ずっと変わらない。たとえ何があったとしても」
「私も、ずっとあなたを愛し続けます。今までも、これからも。たとえ何があったとしても」
そうしてその〈女神のように差し出した白い手〉を取り、彼女の薬指に、そっとエンゲージリングを滑らせた。
彼女は僕の大好きな、飛び切り上等の笑顔で返してくれた。
遠回りしたけれど、僕と彼女の本当の物語は、これから始まる。
ずっとキミを愛し続ける。
今までも、これからも。
完
著作者:藤乃 澄乃
『今までも、これからも。』を、最後まで読んで下さって、ありがとうございます。
主人公の優柔不断さにヤキモキされた方も多かったかとは思いますが、人間は悩むものです。
悩み苦しみ答えを模索していく。
その過程は苦く辛いものかもしれません。
しかし、その時の自分が一生懸命考えて出した結論なら、その時の自分にはベストなのです。
もしその結果上手くいかなくて、後に「あの時こうしていれば」など思うこともあるかもしれませんが、それは結果ありきの考え方なので、決めた時には解らなかったことです。
ですので、過去を悔やむより、真面目に取り組んで、その悩んだことをこれからの人生に活かして、前に進んでいくことの方が大切だと思います。
本文中でも主人公が述べているように、「時間は誰にも平等に過ぎてゆく」ものなのですから。
その時間をどう捉えてどう使うかによって、人生が変わるといっても過言ではないでしょう。
そしてこの物語で伝えたかったことは、「どんなに苦しいことがあったとしても、元気を出して頑張る」ということです。
人生、生きてゆく中で人それぞれに、色んな困難があるかとは思いますが、気持ちを切り替えて、笑顔で、元気を出して頑張っていれば、いつか乗り越えられる。
悩んだ分だけ、その先にはきっと、素晴らしい未来が待っている、ということです。
先のことは全く解りませんが、今を嘆くより、明るい未来を信じて、「元気を出して、今日も頑張る」という気持ちが大切なんじゃないのかな、と思います。
また次回作で、皆様にお目にかかれることを期待しつつ、あとがきとさせていただきます。
皆様、元気を出して、今日も頑張りましょう!
ラストまでお付き合い下さった皆さまに、心から、感謝しております。
本当に、ありがとうございました。
藤乃 澄乃